日本浪漫派の命日

文学

 今日は日本浪漫派の重鎮、保田與重郎の忌日です。

 保田與重郎といえば、戦前戦中を通じて太平洋戦争を賛美する論陣を張り、一躍時の人となりましたが、戦後、そのために公職追放となり、1960年代に入るまで不遇の時代を過ごします。
 しかし彼の本質は、日本の古典を基調にし、仏教の諦念のスパイスを効かせた、純日本的な美的感覚を身に付けた評論家であって、いわゆる軍国主義とか共産主義とか、政治的な主義主張とは関係のない人です。

 靖国神社を始めとする国家神道を、日本古来の神道とは全く異なるものとしてうけつけず、軍が特攻を始めるにいたって、日本軍との蜜月は終わります。

 大東亜共栄圏のために使われた国家神道は、彼が考えるもっと自然な祭政一致とあまりに異なり、結局彼は祖国が大きな戦を始めてしまった以上、勝利を信じて国家に協力することだけが、日本の美を守る道であると考えたようです。

 戦後、いわゆる戦後民主主義者の平和主義とは一線を画す、「絶対平和論」を書いています。
 それはわが国を始めとする東洋文明の豊饒な精神性が熟成するとき、そのときこそ絶対平和が生まれるという、社会党左派以上にイカレタ思想でした。
 しかし、諦観に彩られたその思想は、思想の芸術とでも言う他なく、政治を語るには痛々しいような、純粋な人だったのだろうと思います。

 橋川文三は、「日本浪漫派批判序説」で日本浪漫派の精神構造の分析に努めており、それは評価されるべきですが、およそ浪漫派と言われる人々は、分析などということが大嫌いです。

 美しいと思えば素直にそれを讃え、醜いと思えば顔をそむける、それだけのことです。
 しかも基準はおのれの審美眼ただ一つ。
 余計な理屈は不要です。

 1981年の今日、保田與重郎は72歳で逝きました。
 彼のような繊細な魂には、生きづらい時代であったことでしょう。

絶対平和論/明治維新とアジアの革命 (保田与重郎文庫)
保田 与重郎
新学社
日本浪曼派批判序説 (講談社文芸文庫)
井口 時男
講談社

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