文学 いつちゆくらむ
私が住む街には、思いがけず雨が降りました。 このところ盛夏とは思えない涼しさで、しのぎやすいですね。 去年の猛暑が嘘のようです。 真夏、思いがけない冷たい雨が降ると、なにがなし、物思いに沈みます。 五月雨に 物思ひをれば 郭公 夜ふかくなきて いつちゆくらむ 紀友則 古今和歌集に見られる夏の歌です。 夏の雨の夜、物思いに沈んでいるとホトトギスが鳴いている、こんな夜中にどこへ行くのだろう、というほどの意かと思います。 おそらく、ホトトギスに自身を重ね合わせているのでしょうね。 真夏の夜のメランコリーといったところでしょうか。 真夏のメランコリーと言えば、 あの夏の 数かぎりなき そしてまた たった一つの 表情をせよ という、34歳の若さで事故死した歌人、小野茂樹の歌を思い起こします。 過ぎていったひと夏の思い出を追慕したものでしょうか。 その夏は彼にとって神聖なものであり、また、残酷にも二度と戻らない、儚い夢でもあるのでしょう。 その夏を持てたことは、若くして逝った彼にとって幸せなことだったでしょうか。 それとも、生に執着する悪因縁となったでしょうか。 今となっては、誰にもわかりま...