文学 ささきふさ
先般、縁あってささきふさという女流作家の「おばあさん」という小説を読む機会に恵まれました。 浅学非才の身であれば、モガ(モダン・ガール)と呼ばれ、戦前から戦後の風俗を写実的に活写したこの小説家の存在をこれまで知らなかったことは、いたしかたない仕儀と言うべきでしょう。 「おばあさん」という小説は、都内で長男夫妻と同居する93歳の母親を、伊東に住む末娘夫妻が引き取る話です。 引き取るとは言っても、表向きは一週間程度伊東で温泉につかったり、おいしい海の幸を食したりして保養するために末娘宅へ旅行する、ということになっています。 しかしそれは、実は折り合いの悪かった長男夫妻のもとから、末娘夫妻のもとへ死にに行く、死の準備だったのです。 おばあさんが長男の元を離れなかったのは、大酒のみで独身の次男の存在がありました。 次男はおばあさんと一緒に長男の家の離れに住んで、庭に畑を作って新鮮な野菜を母親にふるまう孝行息子の側面もありました。 小説の一節に、 おばあさんの隱居所は長男の邸内の片隅に在るのだが、本家で百姓につくらす野菜は枯れがれなのに、隱居所の縁先はいつも青あをと、心丈夫な眺めだつた。 とあり...