文学 からっぽ
おそらく日本文学史上、最もシニカルで、それでいて耽美主義的で、擬古典的な、矛盾する要素をたくさん持ちながら、完成度の高い文学作品を書き続けた作家は、三島由紀夫をおいて他にはおりますまい。 私は学生時代、多くの古典を大学の要請により読みましたが、当時最も心酔していたのは、三島由紀夫と石川淳と渋澤龍彦でした。 なかでも政治的発言が多く、最後は自衛官にクーデターを起こすよう決起を促し、割腹して果てるというその生き様死に様は、良くも悪くも私の精神形成に大きな影響を与えました。 彼は自決の四か月前、ある雑誌に日本の未来を予言する寄稿を寄せています。 私はこれからの日本に大して希望をつなぐことができない。このまま行つたら「日本」はなくなつてしまうのではないかといふ感を日ましに深くする。日本はなくなつて、その代はりに、無機的な、からつぽな、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜目がない、或る経済的大国が極東の一角に残るのであらう。それでもいいと思つてゐる人たちと、私は口をきく気にもなれなくなつてゐるのである。 三島由紀夫の自決から42年、現在のわが国は彼の予言どおりになったでしょうか。 今のわが国は無...