
時間を超越すること、あるいは恋愛譚
私が住むマンションの真ん前に、蕎麦屋とイタリア料理店があります。 休日の昼は、どちらかで食べています。 で、近頃気づいたことですが、コロナが流行して以来、イタリア料理店は明らかに客が減り、今や閑古鳥となり、その営業は風前の灯火と思われるのにたいして、蕎麦屋は今も以前と変わらず、繁盛しています。 これは不思議な現象です。 どちらも安価で美味なのですから。 世の中、不思議な現象に満ちています。 初めて会うのに、昔から、いや前世からの知り合いのごとく、初めて会った気がせず、最初から親近感を覚える、あの現象も、考えてみれば不思議な話です。 これは、大抵の場合、男女の浪漫的な恋愛譚に現れるものです。 女は待ち続けていた男に出会ったと喜び、男は探し求めていた女に出会った、と言うような。 恋愛というのは脳が一部馬鹿になった状態でしょうから、恋愛感情によって破壊された脳が、初めての相手なのに既視感を覚えさせ、それを運命的出会いと呼び、二人は恋に落ちていくというわけです。 しかし多くの場合、その感情は長続きせず、別れてしまうか、別れるのも面倒くさいから惰性で一緒にいるか、どちらかにならざるを得ません。 ...