文学

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氷の轍

今日は夏休みの最終日。 心が沈みます。 この休みは二泊三日で那須高原に行く予定でしたが、同居人のコロナ発症で断念。 一人で映画館に2回出かけた以外は家でおとなしく読書をしてすごしました。 今日は桜木紫乃のミステリー「氷の轍」を読みました。 50年に及ぶ母親、母親を慕う男、母親に売られた二人の娘の物語が雄大に語られます。 作中、折々に北原白秋の短い詩が挿入されます。 他ト我という詩です。 二人デ居タレドマダ淋シ 一人にナッタラナホ淋シ シンジツ二人ハ遣瀬無シ シンジツ 一人ハ堪ヘガタシ この小説は、人と人との遣る瀬無い関係性を切り取って見せます。 遣る瀬無い事情で殺人事件が発生し、遣る瀬無い事情で互いに知らなかった50年が語られます。 知らずに済めば良かったのにと思わせます。 この作者、いわゆるミステリー作家ではありませんが、優れた筆力で読ませてしまうあたり、脱帽です。購入はこちらから ↓
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秋雨物語

昨日は小説を読みました。 貴志祐介のホラー短編集「秋雨物語」です。 この作者は長編が多いというイメージがあります。 「黒い家」・「13番目の人格」・「天使の囀り」等を夢中で読んで震え上がったものです。 それらに比べて、「秋雨物語」は、ジュブナイルというか、子供向けのイメージが強く出ていました。 読みやすかったですが、どこか物足りない感じがします。購入はこちらから ↓
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久しぶりに小説を読みました。 桜木紫乃の「霧」です。 芸者から土建屋というかヤクザの組長と結婚した女の日々を描いた物語です。 物語は女が20代半ばで夫を撃ち殺されるまでを、北方領土が見える根室を舞台に描いています。 国会議員、土建屋、ヤクザ、花街の女たち、いずれ劣らぬ狸たちが北の町を舞台に権謀術数を繰り広げる物語です。 焼けば骨しか残らぬ体に、ひとはいったいどんなものを詰め込み、流しながら生きているのか、という一文が印象的です。 久しぶりの豊かな小説体験でした。 ご購入はこちらから ↓
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働けど働けど

今日も今日とて愚かな仕事で一日を過ごしました。働けど働けど わが暮らし楽にならざり じっと手をみる有名な石川啄木の短歌です。これ、給料が上がらず、物価ばかりが上がっていく現代日本のサラリーマンの偽らざる心情ではないでしょうか。私は今年で就職して34年目を迎えます。就職してしばらくはバブルの残滓が残っていて、給料は着実に上がっていきましたが、いつの頃からか、給料の上り幅が千円単位になりました。東日本大震災の際には、国家公務員の給料は一律2%減になりました。仕事で自己実現を図るという奇特なひとならともかく、多くの人は給料をもらうためだけに働いています。建前では社会に貢献したいなんて言いますが、嘘では無いにしろ、労働の主たる動機でも無いでしょう。 34年も働いても、給料は微々たるものです。蓄えは少々ありますから、生活に困るということはありませんが、給料日には給与明細を見てはじっと手を見つめてしまいます。一握の砂・悲しき玩具/
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凍原

今日はのんびりと読書をして過ごしました。 桜木紫乃の「凍原」という小説を読みました。凍原 (講談社文庫)桜木紫乃講談社 この作者にしては珍しいミステリーです。 終戦直後の樺太から命からがら北海道へ逃げ帰った女の半生とそれにまつわる殺人が雄大な時の流れのなかで語られます。 ただし、もともとがミステリー作家ではないし、ミステリー志向とは思えません。 小説家というものはイメージが定着することを嫌い、自分はこんな物も書けるんだ、あんな物も書けるんだと、色々な分野に手を出したりしがちです。 舟木一夫が一時「高校三年生」を歌うことを拒否したとか、太田裕美が「木綿のハンカチーフ」を封印したとかいう話を聞きます。 そればっかり求められると嫌になっちゃうのでしょうね。 この小説もそんな感じが漂っています。 自分は警察小説だって書けるんだ、と言う風な。 この作者はおそらく連作短編による雄大な物語や、中編程度のスパイスの効いた物語を書くことに長けているような気がします。
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