思想・学問

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江戸っ子の酒

時代劇なんかを見ていると、そう裕福でもなさそうな下級役人や町人が、昼間っから蕎麦屋や一膳飯屋で一杯やっているところを見かけます。 ぜんたいに江戸っ子というのは仕事が嫌いで、大店の若旦那など、和歌を詠んだり吉原に繰り出したりして身上をつぶし、 売家と 唐様で書く 三代目などという川柳も作られたほどです。 つまり、金がなくて家を売るにも、唐様つまり中国風で看板を書くということで、教養があったということでしょう。 商家などに奉公に出ても、江戸っ子は手を抜くことばかり考えて働かず、番頭になって取りたてられ、のれん分けを許されるのは専ら田舎から出てきた貧乏なのせがれだったと言われています。 その江戸っ子、江戸時代末期には100万樽もの酒を一年間で消費していたというから驚きます。 きっと田舎の水呑み百姓にとっては、酒なんて夏祭りの時と正月くらいしか飲めない貴重品だったでしょうに。 江戸の人口は100万人くらいと言われています。 中には下戸もいたでしょうし、武家の女は酒を飲まなかったでしょうし、子どもも当然飲みませんから、単純に考えて50万人くらいで年間100万樽を飲んでいたくらいの計算になりましょ...
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大和心

国学というと、どんなイメージを持たれるでしょうか。 古臭くて民族主義的な偏狭な学問、といったところでしょうか。 しかし実際は、国学が大いに興ったのは、江戸時代も半ば過ぎ。 わりあいと新しい学問です。 それまでは、仏教学と儒学がわが国の学問の中心でした。 ちょうど平安時代に国風文化の華が開いたように、太平の江戸時代に、異国の学問を排して大和心を体現する国学が起こったというわけです。 古事記や万葉集を研究し、神道を重んじ、和歌を嗜み、仏教や儒教を無闇と攻撃するのが国学の徒の特徴でした。 幕府は儒学を正式な学問としていましたが、国学を排斥することはなく、黙認していました。 異国への反発や自国への誇りから、江戸時代の似非インテリは争って国学を学び、儒者や坊主を嫌いました。 現在の視点から冷静に見るならば、それは感情的に過ぎ、国粋主義的ですが、当時の時代状況を鑑みるに、不思議なほど欧米列強のナショナリズムの高揚と軌を一にしています。 本格的な帝国主義国家同士の争いが起こる前夜、各国はナショナリズムに燃え、なぜか鎖国下のわが国でもそれが起こったのです。 これはまことに奇妙なシンクロニシティであると...
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たった四杯で

太平の  眠りをさます 上喜撰(じょうきせん) たった四はいで 夜もねられず ペリー提督が黒船を率いて浦賀に入港したのは、今から159年前の今日、1853年の7月8日のことでした。 その後江戸中は上を下への大騒ぎ。 そんな世相を皮肉って、上の狂歌が江戸で流行りました。 今でいえば、突然火星人が攻めてきたくらいのインパクトがあったんじゃないかと思います。ペリーの写真です。怖そうですね。ペリーの人相書きです。あまり似ていないような。 ペリーがそのまま攻め込まず、一年後にまた来る、と言って去ったのには、まことしやかにささやかれる理由があるそうで。 伊能忠敬の日本全図を見たペリーは、このような正確な地図を作れる有色人種には初めて出会った、このような高い技術をもっているということは、もしかしたら軍事的に強大である可能性を否定できない、ひとまず帰るべえ、となったというのです。 そうだとしたら、伊能忠敬、Good Job!ですね。 その後日本は幕末の動乱を経て大日本帝国となり、富国強兵の道を突き進むことになります。 歴史にifは厳禁だと言いますが、日本が朝鮮のように白人を蔑視して鎖国を貫こうとしたら...
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方相氏

昔から人間は、文明を発達させると奴隷を使役するようになりました。 それは戦争に敗れた部族の者だったり、遠く異国の地からさらってきた者だったり、あるいは代々穢れた者とされた一団だったりします。 もともとは労働力としての意味合いが濃かったのでしょうが、時代を経るに従って差別とされるようになり、現代では表むき奴隷は存在せず、差別をしてはいけない、ということになっています。 ヨーロッパにおけるユダヤ人差別やジプシー差別。 米国における黒人をはじめとする有色人種差別。 わが国では朝鮮人や中国人、また琉球の民やアイヌの民を差別の対象としました。 さらには部落民。 首都圏にいると分かりませんが、全国各地で部落差別は根強く残っていると聞き及びます。 差別が生まれる一番の理由は、外見や風俗・習慣が自分たちと異なっていること、しかもそれが自分たちに比べて劣っていると信じ込むことにあろうかと思います。 わが国で差別の源泉となっているのは、天皇陛下を頂点とする身分制度の残滓でありましょう。 元から断たなければ差別はなくなることはないと思います。 宮中では大晦日、大儺之儀(だいなのぎ)が行われていました。 古く...
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醜い

フランケンシュタイン博士は、死体を切り張りして、世にも奇怪な人間もどきを生みだしました。 怪物は創造主、フランケンシュタインを呪い、彼の家族を殺害し、彼をも殺害しようとします。 一方で誰からも嫌われる醜い自分に相応しい恋人を造ってくれと懇願し、博士はそれを作りますが、その女の怪物は、求愛を拒否、焼身自殺してしまいます。 この物語で語られるのは、終始見た目の醜さ。 当初知的で親切な、好ましい性格だった怪物は、人々の迫害を受けてこの世を呪う悪魔に変じてしまいます。 一方、本朝では、西行法師が似たようなことをやっています。 西行法師の偽書とされる「撰集抄」に載っています。 人の姿には似侍りしかども、色も悪く、すべて心もなく無く侍りき。 声は有れど絃管声のごとし。 げにも人は心がありてこそは、声はとにもかくにもつかはるれ。 ただ声の出るべき計ごとばかりをしたれば、吹き損じたる笛のごとし。 と、自分で作った人造人間の醜さを言いたてています。 さても是をば何とかすべき。 破らんとすれば、殺業にやならん。 心のなければ、ただ草木と同じかるべし。 思へば人の姿なり。 しかし破れざらんにはと思ひて、高野...
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