思想・学問

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死者に鞭打つ

その昔、尾張藩主、徳川宗春は将軍家の怒りを買い、隠居謹慎、死後は墓石に縄が打たれるという恥辱を味わったとか。 死者に鞭打つとはこのことですね。 しかし、なんで死者に鞭を打つんでしょうね? 死人の墓石に縄を打ったところで、ご当人は死んでいるので痛くもかゆくもないでしょう。 あるいは遺族を苦しめて意趣返ししようというのでしょうか。 他に、石川淳が永井荷風の死後、「敗荷落日」で荷風山人を激しく責めていたことを思い出します。 一般には、例え犯罪者でも、死後、その人を侮辱するような言説は控えるのがマナーとされているように思います。  死者に鞭打つことが一種の禁忌になっているのは、恐らくは死後存在への怖れだけでなく、死者は生物学的には生きていなくても、物語としては生き続けているからではないでしょうか。 例えば親が亡くなったとして、子は何かの折に親を思い出し、こんな場合はきっとこんなことを言っただろう、と想像します。 すると親を憶ええている者が存在するかぎり、親の物語としての生は終わりません。 秀吉や信長などは、まさに物語のなかで営々と生き続け、サラリーマンは徳川家康を好む者が多く、経営者は織田信長...
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自主規制

東京都青少年健全育成条例の改正案が可決されましたね。  法に反するような性行為を不当に賛美・誇張する漫画やアニメを規制するのだとか。 嗤うべし。 人間が考え、ひねり出した作品をお上が規制する愚は、古来、あまりに多く行われてきました。 それを繰り返そうというのですね。 大体不当に、とは何事か。 それはお上が恐れるほど高い芸術性と影響力を持っている作品としか、私には思えません。 しかも出版社や書店に自主規制を求めるとか。 世に自主規制ほど馬鹿馬鹿しいものはありません。  昭和陛下が危篤に陥ったとき何が起きたか。 歌舞音曲の自主規制。 優勝した野球チームのビールかけの自主規制。 挙句の果てには、「みなさん、お元気ですか」と井上陽水が語りかける車のCMで、その部分を無音にしてしまいました。 天皇が危篤のときは、「お元気ですか」という日常の挨拶すら自主規制してしまうという愚。 人間は日々、小さな差別や犯罪的行為を犯しながら生きています。 そうしなければ生きられないとも言えます。 そういう人間が作り出す表現は、必ず差別的で犯罪的です。  例えば私という言葉を発したなら、私以外の他者と私を区別もしく...
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非暴力

非暴力といえば、インドの偉大な魂、ガンヂーですね。 当時世界最強の大英帝国に対して非暴力で立ち向かい、インド独立を果たしたのだから驚くべき偉業です。 聖者でなければ出来ない仕事です。 しかし生身の人間が聖者になどなれるのでしょうか。 聖者というのは、内部に巨大な矛盾を抱えた存在にしかなりえないのではないでしょうか。 例えばガンヂーは、インドの父となりましたが、四人の実子の父であったのか、また妻の夫であったのか、疑問です。 ガンヂーは38歳のとき、妻との性的関係を断つことを宣言し、妻子には、家族ではなく、非暴力運動の同士となるよう求めました。 ここに、聖者ガンヂーの、目的のためならば家族すら捨て駒にしようという、悪魔の顔を見ることができます。 とくに長男ハリラルは悲惨です。 英国留学の夢を父によって断たれ、清貧・禁欲の生活を求められます。 ハリラルはそれを断って結婚し、女色と酒に耽ります。 借金とりから逃れるため、乞食の姿でインド中を放浪し、父、ガンヂーの死に目にもあえず、ガンヂーの死後半年で、哀れな生涯を閉じることになります。 あまりに偉大な父をもってしまった平凡な息子の悲劇です。 大...
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ワイロ

私の職場にいるオランダ人の日本史研究者が興味深いことを言っていました。  東京の地下鉄でかなりの金額が入った財布を紛失した、もう出てくるわけがないとあきらめていたら、誰かが拾って警察に届けた、名刺を入れていたので警察から連絡があり、無事手元に戻った、日本人の倫理感は素晴らしい、というわけです。 世界中の大都会で、東京でしかこんな奇跡は起こり得ない、とまで。 ところが不思議なことがある、と続けます。 日本人の倫理意識はこんなに高いのに、なぜエリートの高級官僚や政治家が収賄事件をこんなに頻繁におこすのだろうか、と言うのです。 一つ考えられるのは、政治家や高級官僚を目指すようなやつは、高い確率で悪いやつが多い。 または、悪いやつがいる確率は他の社会と同じだが、政治家や高級官僚を何年もやっていると、誘惑が多く、悪いことに手を染めてしまう確率が高い。 どっちかなんじゃないかと思います。 それを防ぐにはどうしたらいいか? 教育するといっても、日本で最高の教育を受けてきたであろうエリートをこれ以上どうやって教育するのかわかりません。 厳罰化したら、犯罪が巧妙になるだけでしょう。 しかし、もっと身もふ...
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欧州貴族と武士

昨夜某大学の紀要を読んでいて、面白い記事がありました。 ヨーロッパの貴族の教養と日本の武士道を比較して、ヨーロッパ貴族の教養は債権債務主義で、日本の武士道は債務至上主義だというのです。 債権債務主義というのは、貴族は特権と富を手にするが、代わりに高い倫理観と重い義務を負うということです。 莫大な債権を持っているけど、負っている債務も重い、従って両者は相殺されて、貧乏な庶民と同じになる、ということでしょう。 第一次世界大戦後、英国ではイートン校の庭の勝利、と言われたそうです。 エリート貴族が集まるイートン校出身の将校が一番戦死率が高かった、とのことで、ヨーロッパでは敵の前で伏せる場合、将校は最後に伏せ、立ちあがる場合最初に立ちあがるのが当然と考えられていたということですから、うなづける話です。 武士道では、債権を投げ出して滅私奉公せよ、という債務だけがある、ということです。 この影響は現在の日本にも及んでいて、犯罪であるはずのサービス残業が横行したり、欧米では100%取得が当然の有給休暇が、日本では50%程度しか消化されていないなど、債権よりも債務を優先させる癖がついてしまっているように...
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