
死者に鞭打つ
その昔、尾張藩主、徳川宗春は将軍家の怒りを買い、隠居謹慎、死後は墓石に縄が打たれるという恥辱を味わったとか。 死者に鞭打つとはこのことですね。 しかし、なんで死者に鞭を打つんでしょうね? 死人の墓石に縄を打ったところで、ご当人は死んでいるので痛くもかゆくもないでしょう。 あるいは遺族を苦しめて意趣返ししようというのでしょうか。 他に、石川淳が永井荷風の死後、「敗荷落日」で荷風山人を激しく責めていたことを思い出します。 一般には、例え犯罪者でも、死後、その人を侮辱するような言説は控えるのがマナーとされているように思います。 死者に鞭打つことが一種の禁忌になっているのは、恐らくは死後存在への怖れだけでなく、死者は生物学的には生きていなくても、物語としては生き続けているからではないでしょうか。 例えば親が亡くなったとして、子は何かの折に親を思い出し、こんな場合はきっとこんなことを言っただろう、と想像します。 すると親を憶ええている者が存在するかぎり、親の物語としての生は終わりません。 秀吉や信長などは、まさに物語のなかで営々と生き続け、サラリーマンは徳川家康を好む者が多く、経営者は織田信長...