思想・学問

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ご臨終

かつて日本では、臨終の際、辞世の歌や句、漢詩などを残してきましたね。 浅野の殿様や太閤殿下の辞世は、あまりに有名です しかし、多くの大名や文人は事前にそれらの詩句を用意していたと思われます。そうでなければ、死の間際、息も絶え絶えに、あんな格好の良い文言は浮かびますまい。 一方、西洋では、そうしたしきたりがありません。そのため、かえって最後の言葉に真実味があります。それらを紹介した書物に「人間最後の言葉」があります。もっとも、西洋人の心にはよほどキリスト教の教えが染み付いているらしく、ほとんどがアーメンやら神様やらが出てくる言葉で、興味をそそりません。 私が面白いと思ったのは、19世紀フランスの女優・ラシェルの「日曜日に死ねて嬉しいわ。月曜日は憂鬱ですもの」と、西太后の「もうけして、女を摂政にしてシナの支配者にしてはいけません」というものです。 いずれも、真実味がありますね。片や、無邪気な女優。一方、権力の極致で人間を見てきた独裁者。 どうも女性のほうが正直なように思います。男は最後まで格好つけたがるというか、悟ったようなことを言いたがります。 さて、では私は、どんなことを言うのでしょう...
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欲望

三大欲求とか言いますね。  食うこと。 眠ること。 セックスすること。 欲望というのは正直なもので、腹が減れば飯を食いたくなり、疲れれば眠くなり、禁欲を続ければやりたくなります。 このうち、性欲は明らかに衰えました。食欲は、量については衰えましたが、より旨いものをリラックスできる空間で食いたい、という質にこだわるようになりました。睡眠欲は、変わりません。これは最後まで変わらないんでしょうね。 他に、金銭欲や名誉欲、権力欲というのがあります。 私は精神病発病以来、元々は健全に持っていたこれら欲望を、諦める他なくなりました。三大欲と同じように、これらの欲望は人として自然なものであり、もっとも純粋なものですね。 コリン・ウィルソンは自己実現欲が最後で最大の欲求であり、これのために生きていると言っても過言ではない、と書いています。 私にとっては、小説を読んだり書いたりすることだったのですが、精神病でもっとも衰えたのがこの自己実現欲求です。 すると、私に今残っているのは三大欲だけなのかもしれません。 犬や猫みたいですね。 それでも、精神病差別だけは許さない、という強い気持ちだけは持っています。 ...
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アメリカで「侍」展が開かれているそうですね。 様々な甲冑や刀や鉄砲が展示されているそうです。米国人の反応は「武器武具」というより、美術品だ、というものでした。たしかに、日本の侍衣装は美しいですね。米国人客も指摘していましたが、まるでダースベーダーのようです。 実用がもっとも重んじられる武器武具に、なぜ装飾を施したのでしょうか。相手への威圧?自分の自慢?よくわかりません。
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常不軽

私はこの二十年、仏書に親しんでいますが、もっとも平易で、納得しやすく、しかも実行が難しいのが、法華経の「常不軽菩薩品」です。 これは、誰にたいしても尊敬の念を口にし、それがために迫害されたが、迫害する者にも尊敬の念をあらわし、ついには仏となり、法華経を説いた菩薩の話です。 私は、自ら組織の長の暴言を許せず、弁護士を立てて要求を突きつけた経験があります。このとき、私の頭の片隅にはこの法華経「常不軽菩薩品」がありましたが、私は自分を抑えることができませんでした。今でも、加害者に対しては抜きがたい嫌悪感があります。 しかるに、常不軽菩薩は、石を投げられても、常に、最後まで、「あなたを尊敬します」と言いつづけました。 逆を返せば、人間というものは、「売られた喧嘩は買ってやる」という意識があって、どんな状況でも相手を尊敬し続けるというのは、真に難しいということでしょう。  ガンジーは非暴力を貫きましたが、同時代、チャンドラ・ボースという、武力闘争を掲げる一派があって、大日本帝国はこれを支援しました。 また、現在のインドは核大国でもあります。  仏教が生まれてどれだけ経つのでしょうか。 今も世界は...
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破滅

世界の破滅という観念は、どこか人を浮かれさせるようですね。 私は少年時代、よく世界の破滅を夢想して、独り、悦に入っていました。 前世紀末、ノストラダムスの予言に浮かれてみたり。 平安貴族は末法の世を恐れたり。 ナチは「我々は世界を焼き尽くす」と豪語してみたり。  核戦争が起きて世界が破滅する物語は引きも切りません。 ところが最近、中年になって、またもや、世界の破滅を夢想するようになりました。そのスペクタクルに遭遇してみたい、と。しかも、自分ひとり、生き残るつもりなのです。馬鹿馬鹿しいことですね。 精神病による妄想と言ってしまえばそれまでですが、私の夢想は、もっと切実なのです。