昨夜、恒川光太郎の「ヘヴンメイカー」を読み終わりました。
![]() | ヘブンメイカー スタープレイヤー (角川文庫) |
恒川 光太郎 | |
KADOKAWA / 角川書店 |
先日読んだ「スタープレイヤー」に連なる作品です。
物語としては独立したものですが、スタープレイヤーが活躍し、最後に前作の主人公が登場して結末を迎えます。
![]() | スタープレイヤー (角川文庫) |
恒川 光太郎 | |
KADOKAWA |
設定は前作と同じく、くじをひいた者が異世界に飛ばされ、10の願いがかなえられるスターボードなる道具を使って冒険を繰り広げる、というものです。
で、「ヘヴンメイカー」。
作者がこの設定で描きたいことはこれだったんだろうなと思わせるくらい、物語は深化しています。
佐伯逸輝という若者が異世界に飛ばされ、スターボードを使って様々な町を造ったり、現地の宗教の聖人、サージイツキになったりと、豊かな物語が紡がれます。
そこに感じられるのは、失ったものへのノスタルジアと、世界の繋がりということ。
佐伯はスターボードを使って、少年時代、淡い恋心を抱いていた、亡くなった女性を生き返らせ、自ら作った故郷、藤沢市そっくりの無人の町で、二人だけの世界を楽しんだり、多くの犯罪被害者を蘇らせたりします。
それは辛い過去を、書き換えてしまおうという試み。
しかしそれは、うまくはいきません。
狸が糞を落とす。
なぜそこに?
その糞から、種が芽吹く。
時を経て、千歳の巨木にまでなり、(中略)無数の生物を育む場所となる。
上の文章は、佐伯がたどり着いた心境の告白です。
自分がスターボードを使って良かれと思って造った世界は、様々な繋がりを持ちながら変化を遂げ、やがては創造主であるスタープレイヤーが思いもしない方向に進んでいく。
偶然のようでいて偶然ではない、そしてすべては縁で繋がっている、という、我々日本人には馴染み深い真理を、さりげなく長い小説の中に潜ませるという手法こそが、この作者の物語を魅力的にしている理由の一つだと思います。
いくつもの奇跡あるいは蛮行をなし、その世界では神格化されながら、10の願いを使い果たし、静かに消え去る佐伯。
彼はどこに行ったのでしょうね。
彼が去った直後、前作の主人公で別の地域に国家を作り上げ、その国を去り、佐伯が造ったヘヴンという町を目指して旅をしてきた夕月がヘヴン近くに現われて、物語は終わります。
この大団円にも、縁起を感じます。
壮大で豊かな物語を堪能できたことは、私の喜びとするところです。
現在刊行されている恒川作品で、未読なのは1冊だけになってしまいました。
寂しいですが、そこは現役の作家。
新作を待つ楽しみもあります。