小沢議員が政治倫理審査会への出席を承諾したとか。
私にとってはどうでもいいニュースなんですが、権力闘争がお好きな民主党のお歴々には大変なことらしいです。
どんな小さな組織にも、派閥ができ、権力闘争が起きるとか。
不思議なことではありますが、ヒトという種の本能とも宿痾ともいべき特性なのでしょうね。
スポーツでも敵と戦う姿に観る者は酔いしれるわけですし、戦争映画やチャンバラが廃ることなく人気を集め続けているのもヒトという種の争い好きからきているのでしょう。
筒井康隆の小説に、「敵」という佳品があります。
定年退職して10年、75歳の元大学教授の日常を淡々と、しかしスリリングに綴っています。
もともと子どもはなく、妻に先立たれたため、元教授は一人暮らしです。
たまに訪ねてくる教え子の他には、話し相手もいません。
それでも老学者は毎日商店街に買い物に出かけ、三度の飯を自炊しています。
晩酌を楽しみ、ときにはスナックに出かけて、アルバイトで勤めている女子大生の人生相談に乗ったりもします。
それは慎ましい生活と言ってもいいでしょう。
しかし元教授の精神は、激しく揺れ動いています。
枯淡の境地からはかけ離れています。
亡き妻を思っては自慰にふけり、あるいは教え子の白い肌を想像しては老いさらばえた身を省みず、誘惑される妄想に耽ります。
このあたり、谷崎潤一郎の「瘋癲老人日記」を彷彿とさせます。
現在の生活レベルが維持できないような経済状況になったら自殺しよう、などとぼんやり考えている矢先、奇妙なことが起き始めます。
パソコンの画面に、敵が近付いています、というメッセージが頻繁に現れるようになります。
それと前後して、老学者の意識は混濁の度を強めていきます。
誰もいないのに教え子が大勢きていると思い込み、大宴会の準備をしたり。
「春になったら、みんなきてくれるなあ」という主旨の独りごとが蓮発します。
その間も、パソコンには敵が近付いている、というメッセージがたびたび残されます。
敵とは一体何者なのか。
誰がメッセージを送ってきているのか。
あるいはすべて混濁した元教授の妄想なのか。
異常なまでの緊張感が溢れます。
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![]() | 鍵・瘋癲老人日記 (新潮文庫) |
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