学生の頃、近代文学概論という講義がありました。
てっきり夏目漱石・森鴎外あたりから後の文学を取り上げるのだとばかり思っていたら、思いっきり古く、仮名垣魯文でした。
ずっこけましたねぇ。
江戸後期から明治初期にかけて活躍した戯作者で、近代文学というより近世文学に近く、面食らった覚えがあります。
彼の作品に「西洋道中膝栗毛」という戯作があります。
「東海道中膝栗毛」で大活躍したやじさん、きたさんの孫がロンドン博覧会に出かけるという趣向で、戯作的滑稽さと、当時の日本人の西洋文明への憧れをくすぐって、たいそうなベストセラーになったようです。
仮名垣魯文本人に洋行の経験はなかったそうですが、見てきたような嘘を書き連ねるのが戯作だとしたら、戯作の王道とも言えましょう。
孫たちも爺さん二人に負けず劣らず間抜けで、笑わせます。
近代文学概論といういかめしい名前の講義ですが、抱腹絶倒でした。
江戸っ子というものは、どうしてああすっとこどっこいで騙されやすく、けんかっ早いのでしょうねぇ。
江戸落語に出てくる人物もたいていすっとこどっこいです。
少々まともと思われる長屋の大家さんも、やっぱり抜けています。
寅さんやタコ社長、おいちゃんみたいな連中があっちにもこっちにもいたと思うと、楽しそうですねぇ。
中村勘三郎もニュー・ヨーク公演の際、警官に何か聞かれて、日本語で「やるってのかっ、撃ってみろっ、撃ってみろぃ」と啖呵を切ったというから痛快ですねぇ。
夏目漱石の作品では、私は「坊っちゃん」と「吾輩は猫である」の二作が最も良いと思いますが、坊っちゃんも典型的な江戸っ子として描かれていますね。
一説には、夏目漱石が「坊っちゃん」を書いたのは、失われゆく江戸っ子らしい江戸っ子へのノスタルジーだったのではないか、と言われています。
でも今でも、けっこういますよねぇ。
人が困っていると放っておけず、つい自分が損しちゃう、話にはオチがないと気が済まない、一見強面ながら話すと抜群に面白い江戸っ子気質の人が。
面白いのは、江戸落語に登場する上方の人は、ケチ兵衛とかあだ名されて、金に細かかったりするのですよねぇ。
たいして広くもないわが国で、お国なまりや郷土の気質が連綿と受け継がれているのは、面白いかぎりです。
あぁ、こんなこと書いていたら、当代最高の噺家、柳家小三治師匠の粋な話が聞きたくなりましたねぇ。
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仮名垣 魯文 | |
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仮名垣 魯文 | |
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仮名垣 魯文,総生 寛 | |
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夏目 漱石 | |
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