たるみ仕事

仕事

 私はもともとひねくれ者であったのが、精神病をやってますますへそが曲がり、手を付けられない問題児となったところで、なんだかどうでもよくなってしまいました。

 生きるだけの糧を得られれば、仕事はどうでもよい、ただし、糧をもらう程度には働く、これは最低の仁義というものでしょう。 
 昇任はしたくないけど、昇給はしたい。これは我がままというのでしょう。

 そういう気持ちになると、発する言葉が、それ言っちゃおしまいよ的な、諧謔を帯びてきます。そして人に嫌われ、ごく一部の人から崇め奉られるという仕儀になります。  

 そんな私の近頃のお気に入りは、加藤郁乎という俳人です。  

 
味気なき たるみ俳句の 御慶かな

 
年賀状に載っている素人俳句はみなつまらん、というのですから、まさにそれ言っちゃおしまい。だけど、そうそう、と相槌を打ちたくなります。

 酒の句もあります。

 
売文は 明日へまはして 菊の酒
 古すだれ 世にへつらはぬは 手酌これ 

 
仕事なんか明日にまわして飲んじゃえ、世の中なんぞ知るか飲んじゃえ、という感じでしょうか。小心のサラリーマンである私には真似できません。

 色っぽいのはどうでしょう。

 
ひめはじめ 昔男に 腰の物
 もがり笛 よがりのこゑも まぎれけり
 一対の 男女にすぎぬ 夜長かな

 
けっこう物凄い句ですね。ここまで詠むのは、他には角川春樹くらいでしょうか。

 たるみ仕事を終えて、独り古今の書物に触れるのは、
こよなうなぐさむわざ
ですね。

俳林随筆 市井風流
加藤 郁乎
岩波書店

このアイテムの詳細を見る
加藤郁乎詩集成
加藤 郁乎
沖積舎

このアイテムの詳細を見る
俳の山なみ 粋で洒脱な風流人帖
加藤 郁乎
角川学芸出版

このアイテムの詳細を見る
加藤郁乎論
仁平 勝
沖積舎

このアイテムの詳細を見る