はらわたのなき涼しさよ

文学

 今日は朝から馬鹿に涼しかったですねぇ。
 不安定な天気が続き、梅雨が戻ったかのごとくです。

 勤め人たる私には、涼しいほうが楽でよろしいですが。
 夏休みを満喫したい少年少女には不満かもしれませんねぇ。


 涼しさや 闇のかたなる 瀧の音  正岡子規

 夏と言っても涼しい日があり、また涼しい場所があります。
 闇のかたに瀧の音とは、涼しいというよりも寒そうな感じがします。

 涼しさに 海へなげこむ 扇かな   正岡子規

 扇を海へ投げ込むほどの涼しさとはいかなるものでしょうねぇ。
 夏の盛りを過ぎた物寂しさが感じられますねぇ。

 大仏に はらわたのなき 涼しさよ   正岡子規

 これはまた、なんとも不気味な味わいの句ですねぇ。

 バイオレンス映画で、悪漢が、ある男の肩を撃ち、「腹が暑苦しいな」とか言いながら腹を撃ち抜くシーンがありました。

 怖ろしいことです。

 この句の大仏は鎌倉の大仏を指していると伝えられますが、なるほど、鎌倉の大仏は野外に鎮座し、夏の日差しでは暑そうに、雪景色の中では寒そうに見えます。

 しかし暑そうに見えても、はらわたが無いとは涼しかろうというわけで、無機物が根源的に持つ冷たさを感じさせます。

 動物も植物も嫌いな私ですが、石などの無機物には心惹かれます。
 これはごく幼い頃からそうで、無機物が持つ、死をイメージさせるような、独特の冷たい生態が、私をして無機物のように生きたいと願わしめるのでしょうねぇ。

 しかし当然ながら、雑菌まみれの不潔な肉体を持った動物である私は、熱い生態を生きなければならないのです。

 できれば生涯無菌室で、死のような生を送りたいという暗い欲求を、禁じ得ません。

子規句集 (岩波文庫)
高浜 虚子
岩波書店



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