はるともしらぬ

文学

  もう三月も上旬を終えようと言うのに、外は冷たい雨が降っています。
 今にも雪に変わりそうです。

 寒いんだかあったかいんだかはっきりしろ、と言いたくなるような、日替わりで寒暖が入れ替わる日々が続いています。

かきくらし 猶ふる雪の さむければ はるともしらぬ たにのうくひす

 「金塊和歌集」「春」にみられる源実朝の和歌です。

 こう冷たい雨が降り続いていれば、谷の鶯どころか、事務所のおっさんでさえ、春とも知れません。
 
 しかし春先に変に冷えるということはよくあって、だからこそ上のような歌が詠み継がれてきたのでしょう。

 そうであれば、この寒さをも、春の風情と楽しむのが上策なんでしょうが、病み上がりの身には応えますねぇ。

 源実朝という歌よみ、辛口で知られる正岡子規から高い評価を受けています。

 実朝といふ人は三十にも足らで、いざこれからといふ処にてあへなき最期を遂げられ誠に残念致し候。あの人をして今十年も活かして置いたならどんなに名歌を沢山残したかも知れ不申候。とにかくに第一流の歌人と存候。

 べた褒めですね。
 気持ち悪いくらい。

 でもそういう優れた歌よみが、鎌倉幕府の将軍を継がなければならない立場だったということが残念でなりません。

 もっと下級の武士であれば、西行法師がそうしたように、武士の地位を捨て、遊行僧となって思うさま歌を詠むことができたでありましょうものを。

 今宵は定時で帰って、熱燗でもふくみながら、「金塊和歌集」でもひもとくといたしましょうか。

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