ひなた

文学

 今日はひどい風が吹き荒れています。
 買い物に行った以外は、家で大人しく小説を読んですごしました。

 吉田修一の「ひなた」を一気に読みました。

 この作者、平凡な日常のなかのゆがみを描くことが得意なようです。

 「ひなた」は、4人の春夏秋冬を、それぞれの独り語りを積み重ねる形で紡ぎだしていく、という手法で描かれています。
 これといった盛り上がりのない、平凡な日常のなかに、小さな嘘や不安が丁寧に描かれています。

 大学生の尚純とその彼女のレイ、直純の兄夫婦の4人です。
 平凡なようでありながら、じつは4人とも、不倫であったり、出生の秘密であったり、同性からの求愛であったりといった、小さな日陰を抱えています。
 日陰を抱えているからこそ、日向を求め、日向を守ろうとするのです。

 そしてまた、台詞がじつに上手です。
 まるで脚本を読んでいるかのような錯覚におそわれ、さらには私の中で配役を考えてしまうほど、演劇的でもあります。

 身近な人の不倫を評して、

 誰かを裏切りたくて、誰かを好きになるヤツなんていないんだし、誰かを好きになっちまうから、仕方なく誰かを裏切らなきゃならなくなるんだよな。残酷な話だけどさ。

 などと語る台詞は、腹にすとんと落ちてきます。

 私は結婚して18年、浮気をした経験などありはしませんが、それでも軽い恋心を抱いた相手は何人かあって、彼女たちとは友情のオブラートにくるんで、あくまでお友達として付き合い、そのうちに彼女たちも結婚していって、自然と疎遠になるという繰り返しでした。
 増えるのは年に数回だけ会う飲み友達ばかりで、私の肝臓は悲鳴を上げていることでしょう。

 もしそのうちの一人と関係を持ったなら、私は上の台詞のような言い訳をしたでしょうねぇ。
 それは言い訳のようであり、しかし真実でもあります。

 そのような真実をつく台詞が散りばめられた、愛しい小説に仕上がっています。
 是非ご一読を。

ひなた (光文社文庫)
吉田 修一
光文社


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