イギリスの哲学者、コリン・ウィルソンは、誰もが体験する神秘的な状態を、至高体験と呼んでいます。これは心理学者のマズローが提示したもので、コリン・ウィルソンはこれを発展的に解釈しています。
至高体験は、ランナーズハイや薬物によるトリップとは違った、健康人が自己実現を果たそうとするときに起きるそうです。
人間は食欲・性欲・睡眠欲の三大欲求が満たされ、さらに名誉欲や金銭欲が満たされても、それだけでは満足できないようにできています。
そこで最後に現れてくるのが、自己実現欲求です。そしてこの自己実現欲求が満たされたときこそ、至高体験が生まれるのです。
コリン・ウィルソンは処女作「アウトサイダー」で、色々な芸術家などの、社会秩序の内にとどまることを拒否した人々の問題を扱っています。その内容は絶望的なものです。退屈な日常に倦み、世界の成り立ちに絶望した人々を扱って、知的スリラーとでもいうべきものです。ニーチェやドフトエフエフスキー、サルトルなどが論じられます。
「至高体験」は「アウトサイダー」で提示した問題への解答と読むことができます。
「アウトサイダー」は一種の文学評論ですが、「至高体験」は心理学に基づいた人生哲学の書と言えます。
社会に倦んだ人々が、常識と健康を取り戻し、しかもポジティブに生きる方法を説いています。
考えてみれば当たり前の話なのですが、精緻に組み立てられた理論は、快感さえ覚えます。
「至高体験」も「アウトサイダー」も論壇から偏見をもって無視されているように思います。
私は、もはや古典的名著だと思います。
![]() | 至高体験―自己実現のための心理学 (河出文庫) |
Colin Wilson,由良 君美,四方田 犬彦 | |
河出書房新社 |
![]() | アウトサイダー (集英社文庫) |
中村 保男 | |
集英社 |