ネズミ駆除業者

思想・学問

 硫黄島に上陸した米兵の多くが、ヘルメットにネズミ駆除業者と書いていたことを知りました。
 「容赦なき戦争ー太平洋戦争における人種差別ー」において。
 
 先の大戦では、日本人は敵を鬼畜米英と呼び、米国人は日本人を、ジャップだけではなく、猿とも太平洋の狂犬ともアリとも言いました。
 で、硫黄島ではネズミだったというわけです。
 日本が完全勝利の見込みなどないままに戦争に突入したのに比べ、米国は負けるはずがないという自信を持っていました。
 しかし緒戦、日本軍が快進撃を続けたことから、米国は自国民と自国の兵隊に恐るべきプロパガンダを行いました。
 日本人の絶滅です。
 人間ではない、下等な生き物で、しかも害獣だから、根絶やしにしなければならないんだそうです。
 さらに、日本人は死ぬことを誇りにしているから、お望みどおり殺してやろうというわけです。
 
 終戦直前、アメリカで行われた世論調査では、戦後処理として、日本人全員の殺害を望んだ者が13%、国家の壊滅を望んだ者が33%だったそうです。
 半数ちかくの米国人が、戦後、日本には死んだままでいてほしかったようです。
 
 その頃米国で流行ったジョークに、
「良い日本人を知っているかい?」
「そんなやついるわけないだろう」
「死んでいる日本人さ」
 と、いうのがあったそうです。

 また、戦後、22.7%のアメリカ人が、日本の降伏が残念だ、と感じていたそうです。
 徹底抗戦してくれれば、まだ何発でも原爆を落とし、日本人を根絶やしにできたから、だそうです。

 米国民がドイツに対してどういう戦後処理を望むか調査したところ、皆殺しを支持した者は驚嘆すべきことに0%だったそうです。
 
 明らかに有色人種を差別しているものと思われます。
 そしてその差別は、一人日本人に対してだけでなく、広くアジア人全体、もっといえばアフリカやアラブを含めた有色人種全体に及んでいるものと思われます。
 というより、日本が軍事的に強力であったため、全有色人種の代表として、連合軍に憎まれたのでしょう。
 
 第一次世界大戦後のパリ講和会議で、日本は戦勝五大国の一国として、世界で初めて人種差別撤廃を講和条約に盛り込むよう提案しましたが、英国や米国などの反対にあい、この正当な要求は拒絶されました。

 第二次大戦が終わった頃は、まだ人種差別は当たり前で、後のキング牧師による公民権運動や、各植民地の独立戦争終結まで、人種差別は悪である、という共通認識は白人においても有色人種においてさえも、共有されていなかったと思われます。

 命のやり取りをすれば互いに憎しみが増すのは当たり前ですが、そこに人種や文化、宗教の違いが入ってくると、問題はとても複雑になります。

 今、公の場で差別的な発言は許されない時代となりました。
 それなのに、人種、男女、身分、色々な違いを取り上げて差別する悪習は根絶されません。
 考え方や文化が違う人とコミュニケーションをとるのは非常なストレスです。

 私も若い頃インドや東南アジアを貧乏旅行して、痛感しました。
 これに対処するのに有効な方法は三つ。
 殺し合う、根気強く話し合う、互いに無視する。

 日本は長いこと互いに無視する、を、一部例外を除いてほぼ貫いてきました。
 しかし明治の開国以来、殺し合いをやったり、根気強く話し合ったり、互いに無視することは許されなくなりました。
 菅総理は「平成の開国」と言っていますね。
 どんな諍いを生むかは分かりませんが、わが国はもう昔には戻れません。
 諍いを恐れず、進むしかありますまい。

容赦なき戦争―太平洋戦争における人種差別 (平凡社ライブラリー)
ジョン・ダワー,John W. Dower
平凡社

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