ノスタルジア

思想・学問

 ノスタルジアというと、郷愁とか、過去を懐かしむとかいう意味で使われますが、元々は精神病を表わす言葉だったそうです。
 スイスの精神科医が、異国の前線で戦う兵士たちに蔓延した、抑うつや悲哀感をともなう症状で、これを説明するために、造語をしたそうです。
 2つのギリシャ語「nostos」:帰郷、および「algos」:心の痛み、を基にして造った合成語で、「故郷へ戻りたいと願うが、二度と目にすることが叶わないかも知れないという恐れを伴う病人の心の痛み」というのがその定義です。

 しかし今では、ノスタルジアを精神病の一つとして使うことはありませんね。
 多くは中高年が若かりし頃の流行りや風俗にノスタルジアを感じること。
 しかし近頃、「三丁目の夕日」とか、横浜ラーメン博物館とか、昭和30年代に特化したノスタルジアを国民総出で感じているように思います。
 言わば、集団的ノスタルジア。

 自分が生まれる前の時代にノスタルジアを感じるというのは、本や映像でしか知らないわけですから、当然理想化が起きているものと想像できます。
 歴史学者や歴史オタク、あるいは古典文学者などは、その最たるものではないでしょうか。

 司馬遼太郎などは、明らかに明治の日本にノスタルジアを感じていた風です。
 しかし明治への思いが強すぎて、昭和の日本人はダメなやつばかりになった、と言っていましたが、そんなことはありますまい。
 その時代時代で一所懸命生きた結果、明治は欧米列強と肩を並べ、昭和は日本を破滅に導いた、という結果があるだけです。
 しかも昭和の日本人は破滅の後、再び経済力で世界の主要プレーヤーにのし上がりました。

 昭和30年代がノスタルジアの対象になるのは、高度経済成長が始まった頃で、ベビーブーマーが子どもの頃、社会に活気があったのでしょうねぇ。
 そしてまだ1960年代から70年代前半にかけての、あの馬鹿げた政治の季節が到来しておらず、社会に安定感があったのでしょう。
 もっとも、定年を迎えたベビーブーマーたちは、あの政治の季節を反省もせず、ノスタルジアにひたっているようにも見えます。

 また、プルーストはマドレーヌを食べて幼い頃を鮮明に思い出したことがきっかけで、長大な「失われた時を求めて」を書きました。
 これは極めて個人的なノスタルジアですね。

 昔は良かった、とか、今時の若い者は、というセリフは恐らく人間が言葉を持った時から世代を超えて言われ続けてきたことなのでしょう。
 しかしそういうことを言う老人が若かった頃、その当時の老人に同じことを言われていたことでしょう。
 永遠の繰り返しです。
 時にはノスタルジアにひたるのも精神衛生上良いでしょうが、人間は今現在と、近い未来のことを考えなければ生きていけないことを肝に銘じるべきでしょう。

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