プリズム

文学

 今日はどんよりと曇り、寒い日でした。

 自宅のプリンターが全く動かなくなってしばらくたつので、近所の大手家電量販店でプリンターを購入し、接続しました。

 もうじき年賀状の季節ですからね。
 宛名書きを手書きで行うなんて、考えただけでもぞっとします。

 それ以外は、自宅で大人しく読書をして過ごしました。

 読んだのは、貫井徳郎の「プリズム」

プリズム (創元推理文庫)
貫井 徳郎
東京創元社

 ちょっと変わった構成のミステリーでした。

 小学校の若い女教師が自室で死んでいるのが見つかります。
 死因は置時計の角で頭を殴られたらしいこと。

 この作品は、4人の関係者が、それぞれに推理をめぐらし、別々の結論に至る、という構成になっています。

 4つの章で、それぞれ語り手が代わり、連作のような形式になっています。

 しかも推理する人物それぞれが、被害者に全く異なる印象を抱いており、ちょっと、芥川龍之介の「藪の中」を連想させます。

 立場が代われば見方も変わる、ということを痛感させられます。

藪の中 (講談社文庫)
芥川 龍之介
講談社

 まず教え子の男子小学生が推理。
 教え子にとっては、被害者は児童の気持ちが分かってくれる、やさしくて元気な先生として描かれます。

 次に同僚である女教師が推理。
 彼女にとって被害者は、あまりにも天真爛漫であるがゆえ、人を疲れさせる厄介な人物として描かれます。
 ここで、教え子の推理は見事に覆されます。

 3番目に、被害者のかつての恋人が語り手となります。
 彼にとって被害者は、とてつもなく我儘な、それでいて限りなく魅力的な女王様として描かれます。
 彼も、同僚の女教師とは全く異なる結論にたどりつきます。

 4番目は、最初の章の男児の父親で、しかも被害者と不倫関係にあった医師が、驚愕の推論にたどり着きます。
 医師にとって被害者は、不倫相手というだけではない、かけがえのない存在として描かれます。

 ただし、作者は真犯人を提示することなく、小説を終わらせてしまいます。
 被害者をめぐる多様な見方が示され、それをもとに読者に結論をゆだねる、ということのようです。

 最後、どうなるんだろう、という興味で読み進めると、肩透かしを食います。

 一方で、様々な読み方ができる興味深い作品でもありました。


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