よく都会で生まれ育った人は、テレビで北海道や南の島などでの生活を見て、大自然と一体となった清らかな生活に憧れたりします。
私はそれほど大それたことは思いませんでしたが、朝夕の電車のラッシュが嫌で、お隣千葉県の職場に職を得て東京を脱出しました。
千葉市は田舎とは言い難いですが、それでも苦痛を感じるような人ごみに出くわすことは滅多にありません。
そこそこ田舎でそこそこ都会。
生活に不便はなく、人ごみもないということで、千葉市に引っ越して本当に良かったと思います。
それでも、自然と共生している田舎の人々の暮らしをテレビなどで見ると、ああいう生活をしてみたいものだ、と悪い誘惑に駆られることがあります。
しかし私がそういう話をすると、親しい友人は鼻で笑うのです。
ミミズやゴカイに触れないから釣りもできないし、できたとしても釣り上がった魚に触れることもできないだろう、と言うのです。
たしかにそうです。
私は焼き魚が好きですが、秋刀魚の死体もアジの死体も触れません。
また、カエルやへびが出たら飛んで逃げるだろうから畑仕事もできないだろう、と言うのです。
じつは私は、カエルやへびどころか、犬や猫に触るのも嫌なのです。なんだか蚤がつきそうで。
また、田舎はうるさい、と言うのです。
セミやらカエルやらの鳴き声で、車の音よりうるさい、と。
精神病を患ってから、静寂を好むようになったので、生き物の声は難しいところですねぇ。
結局大自然に包まれた暮らしを送ることはなさそうです。
最近、ベニシアさんという英国人女性の生活を追った番組を見かけます。
英国貴族に生まれ育ち、子どもの頃は部屋数が100もある立派な古城に住んでいたとか。
しかし19歳のとき、社交界デヴューを拒否して放浪の旅に出、ヨーロッパ各地やインドを彷徨ったあげく、37年前に日本に入国、さらに日本各地を歩き回って結局京都大原の築100年という古民家に住みついたそうです。
10歳ほども年の離れた若い日本人男性までゲットして。
職業は英会話学校経営だそうですが、どうも仕事をしている風には見えません。
ガーデニングに励んだり、お茶を飲んだり、香草を栽培したり。
夏目漱石風に言うなら、高等遊民という感じでしょうか。
私が面白いと思ったのは、日本の伝統文化やポップカルチャーにさして愛情を感じていないように見えることです。
英国貴族が京都に住みついたなんていうと、柔道や剣道、あるいは書道や茶道、はたまた日本建築や日本の芸術・文化に強い愛着を持ってしまったのかな、と想像しますが、彼女の場合は大原の里山にある古民家に住んでいるというだけで、暮らし向きはまるっきり英国風なのです。
食い物はパンや芋ばかりだし、緑茶は飲まず紅茶ばっかり飲んでるし、酒といったらシャンパンだし。
ということは、日本の核とでもいうべき伝統的精神文化や今世界を席捲しているポップカルチャーではなく、大原そのものが気に入ったということなんでしょうか。
縁は異なもの味なもの。
男女の出会いばかりではなく、土地や職業との出会いもまた、不思議なものです。
そんな風にはるか異国の里山に出会うとはうらやましいかぎりです。
それとも、悪縁契り深し、のほうでしょうか。
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