今宵はタイム・ループをテーマにしたSF映画「リピーターズ」を鑑賞しました。
ドラッグ依存症患者の更生施設で日を送る若者たち。
そのうちの若者二人と少女一人が同じ時間帯に感電してしまいます。
すると不思議なことに、三人は同じ日を繰り返すことになるのです。
それは水曜日の午前7時半、更生施設職員の声で起こされることから始まります。
同じ場所で同じような諍いや出来事が起きます。
最初は途方に暮れる三人。
しかし、今日やったすべてのことは、夜が明ければまた今日になるため、チャラになることに気づき、三人は無軌道に突っ走り始めます。
酒屋に銃を持って押し入ったり、気に食わないやつを痛めつけたり。
思い立って、良いことも試みます。
ニュースでダムに投身自殺した者がいると知って、助けるのです。
しかし良いことも悪いことも、朝になればすべては喪われてしまうのです。
酒屋に強盗に入ったことも、自殺者を食い止めたことも、すべてはこれから起こる今日の出来事です。
毎日同じ自殺者を救いに行こうと思うでしょうか。
若者の一人はエスカレートして、強姦を犯したり、挙句の果てには警官を殺害したりしてしまいます。
彼は永遠に繰り返す今日を生きることを天恵と考え、悪逆の限りを尽くそうとするのです。
悪事を繰り返す彼の表情は、喜悦に満ちているようでいながら、まるで苦しい修行を続ける行者のようです。
モラルの崩壊の先の先まで到れば、そこには新たなモラルの地平が開けるとでも考えているかのごとくです。
石川淳の小説「至福千年」に、千年会という江戸民衆革命を目指す妖しい隠れキリシタンのある信徒が、
悪逆をはたらき、我意のつのるところをおこなって、はばかりなく押しつらぬけば、ついに神はわが身のうちにこそあれ、
という、サド侯爵もびっくりな悪の思想を語る場面があります。
「リピーターズ」を観ていて、「至福千年」との類似を思わずにはいられませんでした。
一方残る男女は、彼のエスカレートを止めようと必死になりますが、彼の悪への志向は自虐的なまでに高まっていきます。
そしてある老人を撃ち殺したとき、雪が降り始めます。
何度もくりかえした今日は、常に晴れていました。
しかるに、雪が降ったのです。
彼はリピートの終わりを実感し、ますます悪行をエスカレートさせていくのです。
単純なタイム・ループ物のSFかと思いきや、意外にも人間の倫理規範がどこにあるのかを鋭く突き、しかも悪は何をもって悪となるのかまでをも考えさせる、哲学的な作品に仕上がっています。
一見の価値ありです。
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