ローマ教皇の差別

思想・学問

 近頃英国議会で、同性愛者の雇用差別を禁止する法案が審議中だとか。
 差別禁止、たいへんよろしい。

 ところが、この法案が教会の職員にも適用される、とのことで、ローマで派手ななりをしてふんぞり返っているドイツ人が、噛みついたようです。
 同性愛嫌いはヒトラーユーゲント時代にたたき込まれたのでしょうか。それとも、終戦直後捕虜となって、英国人だか米国人だかにおかまをほられて、トラウマになっちゃったんでしょうか。
 当時ドイツでは同性愛者はユダヤ人と一緒に収容所送りでしたし、ローマ教皇庁は、先の大戦中、一貫してナチを支援しましたね。
 それともローマでドイツ人がトップに立つためには、キリスト教保守派にすり寄る必要があったのでしょうか。

 このドイツ人は、イスラム教を、
世界に悪と非人間性をもたらしたと言ったり、仏教を、明確な信仰の義務さえない自己陶酔、と言ったり、どうも差別的な発言を好むようです。

 同性愛者の雇用差別禁止法案を受けて、ローマ教皇は自然の摂理に反する、と言ったとか。
 それは、性欲のことでしょうか。

 昨年、アイルランドの神父による少女への性的虐待が発覚したのをきっかけに、世界中のカトリック教会で同種の事件があったかをローマ教皇庁自ら調査しました。結果、被害者は少なくても少年少女合わせて2,500人以上とか。

 しかし教皇は「一部の者の過ち」「性的虐待はカトリックだけの問題ではない」などとうそぶき、反省の色を見せませんでした。

 そうしてみると、性欲は自然の摂理に反しないということですかね。

 不妊治療中でもないかぎり、子孫を残すぞ、と気合を入れてセックスするカップルなんてまずいないと思います。したいからするんですよね。
 したい、というその気持ちがどんな対象に向かうか。これはじつにさまざまです。
 妊娠に適した若く健康な女性に向かうばかりではありません。初潮を迎えていない幼女や、更年期を迎えた熟女、さらには中身よりもパンツに興味がある、という猛者もいます。同性に向かうなんて、マイノリティーの中では多いくらいです。

 日本の戦国武将などは、男も女も両方嗜むのがむしろ一人前で、だから太閤は、女色にしか興味を示さない無粋者、と馬鹿にされたのでしょう。江戸時代には、陰間茶屋が流行りましたね。

 食欲にしても、個体を維持するどころか、歩くことすらできなくなるまで太っても、食うことを止めない者もいれば、食うことを拒否してついには死んでしまう者もいます。

 要するに、欲望の種類は人の数だけ。

 他人の欲望を自然に反する、と言って否定するのは、多様性を認め、違う意見、違う宗教、違う文化を認め合おうではないか、という民主主義に反します。多様性を認めるということは、有史以来、延々と、違うものを認められずに戦を続け、今もなお続けている人類が、多大な犠牲のうえに勝ち得た叡知です。

 ベネディクト16世の態度は、極めて差別的ですね。
 英国議会は必ずこの法案を通してほしい。法案成立の暁には、英国の教会は同性愛者を差別せず、試験なり面接なりしなければなりません。

ローマ教皇とナチス (文春新書)
大澤 武男
文藝春秋


江戸のかげま茶屋
花咲 一男
三樹書房