その道さかりに興り、その流れいまに絶ゆることなくして、色にふけり、心をのぶるなかだちとし、世をおさめ、民をやはらぐる道とせり。
新古今和歌集「仮名序」に見られる和歌の効用です。
色にふけり、心をのぶるなかだちとするというのは素直に腹に落ちますが、世をおさめ、民をやはらぐる道とするというのは、なんとなく違和感を覚えます。
それはつまり、和歌によって政治的影響力が生じるということでしょうか。
かつて、ベトナム戦争激しい頃、反戦を専らとするフォーク・ソングというジャンルが流行りました。
それはやがて、四畳半フォークなどと呼ばれ、生活上の哀感を歌う貧乏くさいものに進化もしくは退化していき、今ではほぼ絶滅しました。
音楽に限らず、絵描きでも小説家でも彫刻家でも、政治的メッセージを込める作品は少なくありません。
言いたい気持ちはわかりますが、私はこれを、芸術家の堕落としか考えられません。
政治に色気を持ったなら、すぱっと政治家に転身すればよいのです。
例えば石原慎太郎のように。
今となっては石原慎太郎が元々は文芸の世界の人で、今も精力的に書き続けていることは、忘れさられてしまった感があります。
レーガン元大統領やシュワルツェネッガー元カリフォルニア州知事は役者出身ですし、東国原前宮崎県知事はお笑い界の人でしたし、扇千景元参議院議長は宝塚出身の女優でした。
なにも政治家の倅や娘、もしくは高級官僚出身者でなければ政治家になれないわけではありません。
そんなことを考えつつ、新古今和歌集「仮名序」に戻って考えてみると、当時の歌人は高い地位にある人々で、多くは政治的にも高い地位にあったことに気付きます。
現代のように職業として歌う人はほとんどいなかったわけで、まずは読み書きができて、本歌取りのような高度な技法を駆使できる教養があって、となると、必然的に当時の和歌には庶民を教化・指導するという意味合いもあったはずで、そこから、世をおさめ、民をやはらぐる道とする、という言葉が説得力を持ってきます。
古今和歌集「仮名序」は、和歌賛歌であり、歌論の始まりであっても、かくのごとき政治との関わりを読みとることはできません。
古今和歌集が編まれたのが平安初期、新古今和歌集は鎌倉時代初期、およそ300年の時を隔てています。
この間源平の争乱を始めとする大きな社会変化が起き、和歌に求められる役割も変わってきたのではないでしょうか。
古今和歌集はたをやめぶり(女性的)であり、新古今和歌集は唯美的かつ技巧的と評されます。
一方最も古い万葉集はますらおぶり(男性的)であり素朴であるとされています。
正岡子規が万葉集を褒めたたえ、古今和歌集を軽んじて紀貫之を下手な歌よみとまで酷評してから、万葉集を良しとする風潮にわかに栄え、今だに衰えません。
しかし私は、万葉集よりも古今和歌集を、古今和歌集よりも新古今和歌集を好む者です。
和歌の長い歴史の中で、新古今和歌集の時代は、和歌と政治とが善政を前提として一致もしくは一致しようとした、例外的な時代だったのかもしれません。
現代における和歌の衰亡は著しいものです。
日本人が世界に例のない極端な短型詩を発展させたことは、日本語という言語の成り立ちに関わる重大事だと思っています。
それが一部好事家と専門家だけのものになってしまっては、いかにももったいないというものです。
中学・高校での古文は、文法中心のつまらないものですね。
古文は古いというだけで、元来日本語なのですから、事細かに文法を教えたり現代語訳させたりすることに意味はないと思います。
めくらめっぽう暗記させれば、意味など教えなくても自然と分かってくるでしょう。
わが国の貴重な遺産である古典文学が、旧弊な学者だけの物になってはいけません。
小学校1年生から、古文を暗記中心で教える昔懐かしい教育方法を取り入れて、子どもに日本人としての教養を身につけさせるべきではないでしょうか。
教育基本法に国を愛する心を涵養する、なんて書いてあったって、基礎となる伝統的教育を行わないと、仏作って魂入れずみたいなもので、国の伝統文化を愛する心ではなくて、空っぽな愛国心しか生まれないと思うのですがねぇ。
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