米誌タイムが発表した「世界で最も影響力のある100人」の一人に、村上春樹が選出されたそうですね。
ここ何年もノーベル文学賞候補に名が上がり、諸外国でも多くの読者を抱える身であれば、当然とも言えるでしょう。
そこで、彼のデビュー作「風の歌を聴け」をぱらぱらと読み返してみました。
デビュー作というのは、その作家の持ち味がすべてつまっているものです。
村上春樹本人は、デビュー作とそれに続く「1973年のピンボール」・「羊をめぐる冒険」の、通称鼠3部作を、未熟だとしてお気に召さないようですが、私はこれら最初期の作品群にもっとも強く惹かれます。
![]() | 風の歌を聴け (講談社文庫) |
村上 春樹 | |
講談社 |
![]() | 1973年のピンボール (講談社文庫) |
村上 春樹 | |
講談社 |
![]() | 羊をめぐる冒険 文庫 上・下巻 完結セット (講談社文庫) |
クリエーター情報なし | |
メーカー情報なし |
「風の歌を聴け」は、都内の大学に通う「僕」が夏休みを利用して故郷の神戸に長期間帰省し、「鼠」というあだ名の友人と酒を飲んだり、奇妙な恋愛沙汰に巻き込まれたりという、広い意味での青春小説です。
ドライな文体にウェットな内容を含んだ、軽い感傷が心地よい作品でした。
ペーパーバックばかり読んでいたという作者ならではの、一見翻訳調にも見える文体は魅力的で、初めて読んだ高校生の頃、強い衝撃をうけたことを思い出します。
その後、私はこの作家の作品をほとんど発売されるや購入し、読み続けてきました。
村上春樹は年を追うごとに壮大で幻想的な物語を紡ぐようになり、それはいずれも楽しく、かつ、ショッキングな読書体験でしたねぇ。
私のお気に入りは、鼠3部作と、「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」でしょうか。
「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」を高校時代に読んで、やられた、と思いましたね。
自分が将来書きたいと思っていたような作品を、先に発表されてしまった、と。
![]() | 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 上巻 (新潮文庫 む 5-4) |
村上 春樹 | |
新潮社 |
![]() | 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 下巻 (新潮文庫 む 5-5) |
村上 春樹 | |
新潮社 |
それは少年らしい自意識過剰と傲慢が作り出した思いであったろうと今になって感じます。
世間知らずの少年が、流行作家とおのれを引き比べているのですからいい気なものです。
彼は必ずしも私が好む人工美を構築する作家ではありません。
人工美よりもストーリー重視の、物語作者と呼ぶのが相応しい、小説家らしい小説家と言えるかもしれません。
今度こそ、ノーベル文学賞を受賞してほしいと願わずにはいられません。
そうすればきっと、わが国の文学作品は、世界を相手に新しい地平を覗き見ることができるでしょう。