世界の終わり

思想・学問

 世界の終わりという観念には、どこか人を浮かれさせる要素がありますね。
 一種のスペクタクル願望ですかね。

 阪神淡路大震災や太平洋戦争末期のような、本当に世界の終わりかと思うような悲惨な状況が発生した場合はそんな浮ついたことは言っていられないでしょうが、観念の遊びとしては面白いと思います。

 平安時代に末法思想が流行ったのも、わくわくするような観念の遊びであったことでしょう。
 江戸時代末期おかげ参りええじゃないかも、古い時代の破滅を予見した庶民が浮かれ騒いだというのが実態ではないかなと思っています。

 「12モンキーズ」では、ウィルス学者が、世界中を旅して猛毒のウィルスをばらまいて回るオチがついています。
 ウィルス学者は本気で人類絶滅を実行したのです。
 その時のウィルス学者の慈愛に満ちた微笑みが印象的です。
 彼は言わば、人類を苦しみから解放しようとしていたのでしょう。

 私の職場の先輩で、もう定年退職して5年になるじいさんと時折飲むのですが「若い頃は歯痛に悩まされたけど、今は歯が一本もないから楽だ、歯なんてあるから痛いんだ」と言っていました。
 それを敷衍すると、人間は存在するから苦しいんだということになり、苦からの最終的解放は死しかないことになっちゃいます。
 危険思想ですね。

 しかし私は危険思想を承知で思います。
 争いや競争にうつつをぬかし、もうかったの損したのと一喜一憂し、病を得て苦しむ人間、いつ肉食獣に食われるかと恐怖しながら生きる草食獣、草食獣をなかなか捕食できなくて飢えに苦しむ肉食獣、そうまでして生きなければならないのでしょうかねぇ。
 地球が豊穣な命の星であることをやめ、月のように美しく冷たい光を放つ無機質な星になれば、地球そのものが抱える矛盾や苦しみから解き放たれるのではないでしょうか。

 しかしそれも、観念の遊び。
 現実に全生命が死に絶えるような事態に、私は我慢ができず、おのれ一人、助かろうと悪あがきするでしょう。

12モンキーズ [DVD]
ブルース・ウィリス,ブラッド・ピット,マデリーン・ストウ
松竹ホームビデオ

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