人外


 今日は休暇を取りました。
 別に理由はありません。
 溜まった年休の消化と、なんだか嫌になっちゃったからでしょうか。
 昨夜はしこたま酒を呑んでしまいました。

 秋は物思いの季節。
 私の心も千々に乱れます。

 わけても考えてしまうのは60歳以降65歳までの働き方。
 60歳までは4年ほど。
 遠い未来ではありません。
 60歳を迎えると、給料は7割に下がり、役職からも降りることになります。
 さらに言えば、フルタイムではなくて、パートタイムで働くことも許されます。
 その場合おそろしく給料は減るでしょうけれど。

 こんなことを考えてしまうのは、私は人生を真っ当に生きた、あるいは生きているだろうかという根源的疑問のせいです。
 固い職に就いて結婚もして家も買いました。
 外面だけをみれば、私の人生は真っ当でしょう。

 しかし私は物語作者になりたいという野望を持ち続けて、密かにせっせと書いたりしていました。
 それは全て無駄な行為に終わりました。
 自慰行為みたいなものです。
 完全に諦めたのは、53歳の時。
 職階が上がり、責任をもつことになった時です。
 昇任の辞令を貰った時、私は人生の終わりを感じ、ひどく辛い思いをしたことを覚えています。
 その時、新人だった22歳から53歳まで、どの部署でどんな仕事をやってきたのかを書き出してみました。
 わずかA4一枚に収まってしまいました。
 30年のお仕事生活はA4一枚に過ぎません。
 今年56歳を迎え、私は空虚な、何者でもない、ただ機械的に仕事をこなすだけの人外境に落ちていると感じます。
 あるいは精神の安定を失っているだけなのかもしれませんが、薬でどうなるものでも無いように思います。
 60歳でセミリタイアし、65歳で完全引退したのなら、私は人外境から人の世に戻ってくることができるのでしょうか。