中井英夫といえば、大長編ミステリー「虚無への供物」が有名ですが、私はむしろ短編にこそ、この作者の面目が現れていると思います。
そこで、「人外境通信」を昨夜読みました。
独立した短編が編められ、最後には最初の作品と同じモチーフに戻っていく、という心憎い手だれによる至芸です。
そのモチーフは、薔薇。
まず、「薔薇の戒め」というタイトルで、薔薇にまつわる不思議な物語が展開します。
その後の短編でも三角関係の悲劇を椅子の視点で描く「笑う椅子」、金色の瞳を持つ青い猫に魅せられた女性の奇妙な経験を描いた「青猫の惑わし」など、まさにこの世ならぬ人外境の出来事を描いて読者を幻惑します。
最後は「薔人(ばらと)」。
薔薇というモチーフがどの作品にも流れています。
人工的に彩られた、どこかに存在する影の王国、人外境。
そこに彷徨い込んだ時、人はそこが人外境とは気付かぬまま、奇妙な経験をするのです。
しかし私たちの日々の生活を思う時、奇妙な事件やくだらぬいさかいが頻発し、理想的な人間社会が存在すると仮定してみると、こここそが人外境なのではないか、という疑念に捉われます。
「人外境通信」は「とらんぷ譚」の三作目を構成しており、1として「幻想博物館」、2として「悪夢の骨牌」、4として「真珠母の匣」があります。
それぞれ面白いのですが、なんとなく1作目、2作目は狙いすぎてあざとい感じがしますが、「人外境通信」、「真珠母の匣」になってくると、肩の力が抜けて良い感じになってきます。
この世ならぬ世界に遊びたい時、何度でも読み返せる珠玉の短編群と言えましょう。
![]() | 幻想博物館 新装版 (講談社文庫 な 3-9 とらんぷ譚 1) |
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![]() | とらんぷ譚2 悪夢の骨牌 (講談社文庫) |
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![]() | 新装版 とらんぷ譚3 人外境通信 (講談社文庫) |
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![]() | 新装版 とらんぷ譚4 真珠母の匣 (講談社文庫) |
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![]() | 新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫) |
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![]() | 新装版 虚無への供物(下) (講談社文庫) |
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