偏愛

文学

 私は現代作家のなかでは、小林恭二を偏愛しています。
 30年近く前のデヴュー作「電話男」から、彼の著すものはことごとく目をとうしています。
 それがうっかりして、一昨年新作が出ていたのを知らず、遅ればせながら読みました。

 「麻布怪談」です。
 江戸末期、大坂の儒者のせがれが38歳にもなって江戸に遊学のため下ってきます。
 当時は田舎だった麻布のあばら家を借り、学問に精を出すでもなく、酒を飲んだり、朋友と語らったり、まことに羨ましいような、自堕落な生活を送ります。
 そこに前後して訪う二人の美女。
 この世のものとも思えぬ二人の美女に、儒者のせがれは入れ込み、翻弄されていきます。
 物語の後半は、まことに奇っ怪なストーリーが展開されるのですが、そこには感傷のスパイスが効いて、切ないラストへと加速度をつけて突き進みます。

 私は今日のソーシャル・ネットの隆盛を予言したかのごとき「電話男」「小説伝」などの最初期の作品を好みますが、「麻布怪談」にも最初期の頃の張り詰めたような緊張感が漂い、十分に楽しみました。
 玉のような掌編集「本朝 聊斎志意」にみられた奇妙な味もこの作品から嗅ぎ取ることができました。

麻布怪談
小林 恭二
文藝春秋
電話男 (ハルキ文庫)
小林 恭二
角川春樹事務所
本朝 聊斎志異
小林 恭二
集英社
小説伝 (福武文庫)
小林 恭二
福武書店

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