久しぶりにきつい小説を読みました。
最近芥川賞を受賞した本谷有希子の「生きてるだけで、愛。」です。
自意識過剰の若い女が登場する、恋愛劇の亜種みたいな話ですが、とにかく主人公の女が、嫌になるほどわがままで、情緒不安定です。
一昔前の、自意識過剰の私小説を彷彿とさせます。
カバーの帯には、凶暴で、美しいとかれていましたが、私には凶暴で醜いとしか思えませんでした。
葛飾北斎の富士と荒波の絵は、五千分の一秒のシャッタースピードで撮影した写真をトレースしたかのごとき一致を見ており、北斎と富士の関係を示唆するなど、印象的な文章はところどころに見受けられ、それは面白いのですが、あまりにエキセントリックな人物を主人公に据える場合、作者は一歩も二歩もひいて描写しなければ、読者はドン引きすると思います。
読んだかぎりの印象では、作者は主人公にのめりこんでいるように見受けられました。
この作品は芥川賞候補になったそうですが、私には近代文学の悪しき伝統である自意識過剰の神経症患者を描いた、古色蒼然とした作品としか感じられませんでした。
ただし、一気に読んでしまったので、読ませる力はあるのだろうと思います。
まぁ、気持ち悪いもの見たさみたいなものでしょうなぁ。
![]() | 生きてるだけで、愛。 (新潮文庫) |
本谷 有希子 | |
新潮社 |