原稿依頼

文学

 実に久しぶりに、某出版社から、原稿の依頼が舞い込みました。
 原稿用紙換算で50枚程度、ブラックな小説が欲しいとのことでした。
 原稿料は原稿用紙1枚あたり2千円という、格安なもの。

 私の実力は、世間ではその程度にしか評価されていないのですね。
 なんだか寂しくなりました。

 で、私は迷うことになります。

 50枚程度、2~3日もあればじゅうぶん書けるでしょう。
 問題は、精神科医から小説の執筆を禁じられていること。

 私は小説の執筆を始めると、大体、躁状態に陥ってしまうのです。

 創作をする人は多かれ少なかれ一緒だと思いますが、自分の作品に絶対の自信を持っています。
 そうでなければ、創作なんて出来はしません。

 そのような状態は、自分を神様とでも思うような、躁病患者の症状と酷似しています。
 だからこそ、精神科医は私に小説の執筆を禁じているのでしょう。

 しかし、依頼が来れば書きたくなるのは本能のようなもの。

 早速私の頭の中では、様ざまなアイディアや、文章そのものが出来上がっています。
 それを形にするかしないかだけの状態になっています。

 躁を抑えるリーマスという薬を毎日朝夕飲んでいても、ちょっとしたきっかけで、私の頭はまさしく狂気のごとく働き、脳内に良からぬ快楽物質を生じせしめています。

 ここはぐっと堪えて精神科医の言いつけを守るべきなのでしょうか。
 あるいはおのれの欲望のままに駄文を書き連ねるべきなのでしょうか。

 理性は精神科医に従うべきだと思いつつ、本能がそれを許しません。

 なんと因果でヤクザな質に生まれついてしまったのか、おのれの馬鹿さ加減が呪わしくて仕方ありません。