昨夜は上品な感じが漂いつつ、けっこうやっちゃってくれるSFを鑑賞しました。
「ザ・ドア」です。
ご近所の女性と浮気している最中に幼い娘が庭のプールで溺死してしまうという誠に不運な出来事に見舞われてしまった画家。
奥様は愛想をつかして出て行ってしまい、5年もの間、失意の日々を過ごしています。
ある時、小さなトンネルの奥を探検していると、古びたドアが。
そのドアの向こうには、五年前の世界が広がっていたのです。
当然娘は生きており、奥様ともよろしくやっています。
しかし、不都合なことが一つ。
5年前の自分もまた、存在しているのです。
![]() | ザ・ドア ~交差する世界~ [DVD] |
マッツ・ミケルセン,ジェシカ・シュワルツ,ヴァレリア・アイゼンヴァルト,トーマス・ティーメ | |
アメイジングD.C. |
画家は自宅に当然のように入り、5年前の自分と鉢合わせ。
5年前の自分は強盗と思い込み、取っ組み合いに。
そこは画家。
鉛筆を5年前の自分の喉に突き刺し、殺害してしまいます。
タイム・トラベルを扱う作品では、タイム・パラドックスということが問題になります。
自分が生まれる前にタイム・トラベルして両親を殺害したらどうなるか、という、よくあるアレですね。
殺した瞬間自分は生まれないことになり、しかしそうすると両親が殺されることもなくなり、という。
これを都合よく解釈したのがパラレル・ワールド(多重世界)という考え方です。
この世はちょっとづつ異なった、しかし似たような世界が無限に存在する、というものです。
そう考えれば、両親を殺した世界と異なる世界から現われた息子が殺人者ということになり、息子も両親も存在し得るということになります。
これはずいぶん都合がよろしいらしく、多くのパラレル・ワールドを扱った作品が作られており、文学作品では、村上龍が、大日本帝國が降伏せず、占領されながらも地下にもぐって何十年も米英と戦い続けている世界を描いた「五分後の世界」というのが出色の出来です。
![]() | 五分後の世界 (幻冬舎文庫) |
村上 龍 | |
幻冬舎 |
「ザ・ドア」はそれに対し、5年前の世界とでもいうべき作りで、後半に向かっていかにもSFらしい疾走感を魅せつつ、どんでん返しを繰り返します。
画家が主人公ということで、いかにも美的な映像に、突拍子も無いストーリーがうまくはまって、なかなか魅力的な作品に仕上がっています。
ハリウッドでは出せない、北欧的な美がまたよろしいようで。