昨夜、夜更かしして読みかけの小説を読み終わりました。
久しぶりに、物語の世界にどっぷり浸かれたひと時を持てたことは、私の喜びとするところです。
小説は貫井徳郎の「夜想」。
この作家、私とほぼ同世代で、魂の暗闘をミステリーに仮託して描く骨太な作風の人です。
ミステリーとしての読みやすさや面白さにこだわるのを止めて、自身の内奥から湧き出でる言葉を紡げば、大変な作家になると思うのですが。
交通事故で妻と幼い娘を喪った30代前半の主人公。
仕事は手につかず、ミスばかりしています。
ある時、喫茶店でアルバイトをしている女子大生と出会い、運命が変わっていきます。
女子大生は、物に触れることでその持ち主の過去や精神状態が分かってしまうという特殊能力の持ち主だったのです。
主人公が落とした定期入れを女子大生が拾い、主人公の深い心の闇を覗いて涙をこぼしたことから、二人の関係は始まります。
主人公は心から自分の悲しみを理解できる人を見つけた喜びで、夜の闇を彷徨っているような状態から抜け出せたと感じ、女子大生を崇拝し、彼女を中心に、悩み相談のような、占いのような会を立ち上げます。
やがてその会は雑誌に取り上げられ、一風変わった新興宗教として認知されていきます。
宗教ゴロのようなやつを組織拡大のために取り入れたり、様々な勧誘活動を行ったり、立ち上げた主人公と女子大生には制御不能な、有機物のように会は成長していきます。
やがて起こる悲劇的な事件と、それによってかえって魂の救済が訪れるという鮮やかな筆を見せます。
サブストーリーもあって、これを軸に据えても十分物語は成り立つでしょう。
また、主人公が夜の闇から抜け出せたと思ったのは錯覚で、相変わらず幻の妻との会話に没入したり、居もしないカウンセラーを妄想したり、かなりへヴィな物語ではあります。
ラストにいたって、特殊能力を持つ女子大生こそ、主人公によって夜の闇を抜け出せたのであり、そのことに気付いた主人公が妻子を喪って初めて、心からの笑顔を見せます。
このラストはきれいにまとまりすぎていて、少々不満があります。
人間、程度の差はあれ不幸な出来事に見舞われたり、生きることに疲れたりすることがあると思います。
この小説では、そんな状態の中でも特に激しい精神的不安を、夜の闇から抜け出せない=夜想、と表現しているようです。
私が感じたのは、夜の闇から抜け出す必要があるのか、ということ。
夜の闇こそが心地よく、メランコリーに沈むことこそが快感と言う人も少なからずいるように思います。
単に苦しみや悲しみから抜け出せた状態を良しとするのなら、太陽が沈まない日は無いごとく、早晩、また新たな悲しみや苦しみが襲ってきて、夜の闇に沈むことになるでしょう。
それならいっそ、太陽の光を忌み嫌って夜に沈み続けるのも悪くない、と思ってしまいます。
月夜は、結構明るいですし。
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