学生の頃、夢日記をつけていたことがあります。
枕元にノートとシャープペンを置き、目覚めたなら、覚えているかぎりの夢を書き留めるのです。
そのうち、奇妙なことが起きました。
夢の記憶が鮮明になり、それが夢の出来ごとなのか、現実なのか、曖昧になってきたのです。
これは危険だと思い、夢日記を止めてしまいました。
筒井康隆は長く夢日記を書き続けており、時にはそこからインスピレーションを得て、作品化することもあるそうです。
精神的に強い人なのだと思います。
現実が夢に飲み込まれる恐怖を感じないのでしょう。
名匠、ヴィム・ベンダース監督に「夢の涯てまでも」という佳品があります。
夢、わけても幼いころの幸せな夢に溺れ、眠ってばかりいる人々を描いて、痛々しくも切ないえいがでした。
いわば、夢中毒。
夢日記に危険を感じた私には、ヴェンダース監督の意図が良く分かります。
![]() | 夢の涯てまでも [VHS] |
ウィリアム・ハート,ヴィム・ヴェンダース | |
電通 |
夢か現か幻か、なんて言いますね。
また、人生の栄華は一炊の夢、とも。
これは中国の故事で、ある青年がうとうとし、栄華に満ちた人生を夢に見るのですが、起きてみるとまだ飯が炊けていないほどの短い時間だった、ということです。
現実がしんどいものである以上、わずかの間でも、夢の世界に溺れたいものです。
もちろん、夢中毒に陥ってはいけませんが。