筒井康隆の小説に、「大いなる助走」という作品があります。
同人誌に参加し、自分が所属する大企業を内幕を暴露した小説を書いた青年が、大企業にいられなくなり、直本賞なる権威ある文学賞を受賞するため、選考委員にあの手この手で働きかけ、しかし受賞を逃がし、選考委員を殺害してまわる、というハチャメチャな小説です。
直本賞を受賞するために、女好きの選考委員には恋人を差出し、男色家の選考委員には自らの体を捧げ、金を積み、それでも受賞できなかった青年は、ほぼ頭が狂います。
映画化もされ、佐藤浩市が青年作家を演じ、鬼気迫るなかにもどこか滑稽な、このおとぎ話の主人公を演じて見事です。
半分呆けちゃった選考委員がいたり、実力がある新人作家は選考委員の生活を脅かすという理由で落としたり、ちょうどその頃筒井康隆が何度も直木賞候補に挙がりながらついに受賞できなかった私怨ばらしの小説と評され、筒井康隆は世の中に私怨ばらしではない小説があるか、と開き直って話題になりましたね。
これを読んだのは高校生の頃で、「大いなる助走」、というタイトルがすんごく気になりました。
つまり同人誌などで書いているのはプロになるための助走でしかない、しかし世の中には助走のまま終わってしまう作家志望者があまりに多い、という記述です。
自分の将来を暗示しているようで嫌でした。
しかし、草野球を楽しむ人を、プロになれずに一生助走を続ける人といって嗤うでしょうか。
俳句や和歌を詠んだり、絵を描いたりすることをプロへの助走と呼ぶでしょうか。
プロになるだけの実力がなかったとしても、おのれの湧きあがる魂の運動を表現したいと思うのは本能のようなもの。
それは文学であれ、美術であれ、音楽であれ、スポーツであれ、同じこと。
それを成功したプロ作家である筒井康隆が書くというのは、とても厭らしい、悪趣味なことと思います。
その点をのぞけば、原作も映画も、愉快な娯楽作に仕上がっています。
原作を読んで、映画も観てほしいと思います。
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