大師匠

お笑い

 昨夜某中華料理店で夕食をしたためたのですが、そこにじつに素敵なお婆様がいらっしゃいました。

 レジ前にどっかと座り、二人の女子高生アルバイトに様々な指示を飛ばしています。
 多分耳がお悪いのでしょう、信じられないような大音量の指示でした。

 二階で宴会を開いていたようで、それにまつわる指示。

「今日はねぇ、飲み放題じゃないんだよ。だから酔っぱらってきたなと思ったら、じゃんじゃんビール持ってっちゃいな。飲み放題の時は注文を受けてから時間を置いて持っていくんだよ。いいかい、世の中は何だってあべこべにできてるんだからね。熱燗なんて言われたらねぇ、あっついお湯に少うしお酒混ぜればいいんだよ。どうせ酔っぱらってるんだからわかりゃしないよ。それからねぇ、あんた達若いんだからにっこり笑って『お客さん、すいませんが運んでもらえますか』って言うんだよ。二時間も三時間もまともに働いたら持たないよ。楽しなきゃ駄目なんだよ」

 私は塩味の五目そばをすすりながら、この素晴らしい人生哲学に感嘆の念を禁じ得ませんでした。
 しかし爆笑は堅く禁じました。
 鼻から熱い中華めんをこぼしてはいけませんから。

 二階の宴会客には聞こえていないでしょうが、一階の個人客には丸聞こえです。
 私が宴会の幹事を命じられたなら、是非この店にしようと思いました。
 肝臓にも胃にもやさしい熱燗をだしてくれるであろうからです。

 そしてまた、一階の個人客が、きくらげの炒めを頼んだ時のこと。
 女子高生が、
「きくらげお願いします」
 と言ったところ、厨房に向かってすかさず、
「くらげぇ」
 と、怒鳴ったのです。
 女子高生が慌てて、
「くらげじゃなくてくらげです。、です」
 と、訂正したところ、耳を疑うような返事が返ってきました。
「きくらげなんてねぇ、そば屋のニシンそばみたいなもんなんだよ。誰も頼まないけど格好悪いからお品書きに載せてるだけなんだ。くらげだよ、くらげ」
 女子高生は黙ってしまいました。
 頼んだ客はおしゃべりに夢中になっています。
 で、くらげを持っていくと、
「なんだこれ、のくらげじゃねぇか、俺が頼んだなぁのくらげだよ」
 と言ってはみたものの、かわゆい女子高生の困った顔に免じて、
「まぁいいや。これ食うよ」
 と言ってあっさり引き下がってしまいました。

 以前この中華料理店の向かいのそば屋で、本鴨せいろを注文したところ、
「すいません、本鴨終わっちゃったんです、鴨せいろならできますけど」
 と言われたことがあります。
 そりゃあせいろじゃなくてせいろだろ、と思いっきり突っ込みたくなるのを堪えて、ざるそばを食ったことがあります。

 素敵な飲食店街ですねぇ。

 私は今後、中華料理店のお婆様を大師匠、そば屋のおかみさんを師匠と呼んで贔屓にすることに決めました。

 これからも素敵な人生哲学や言い訳を期待していますよぉ。

 ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

人気ブログランキングへ

↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしいすごいとても良い良い