天命

文学

我、週末の終わりを惜しみて酒に逃れたり。
酒、我をして一瞬の快楽に誘い入れ、心地よし。

我、明日の激務を忘れたることしばし。
能ふなら永遠に忘れたし。

しかれども我、そが瞬時のまやかしなるを知りたり。
知ってなほ、忘却を願ふは、我が魂の怠惰なりや。

そも、魂の怠惰とは何ぞ。
精神の運動とは何ぞ。

我、幼き日より、一つ、求めたり。
すなわち、美を求めむがための運動なり。

我、この世に堕ちたる所以のものは、美を求めむがための運動おこしめむと欲するために他ならず。

されど我、美を忘れて久しく、これぞ魂の怠惰なりや。

今生の我、何をもってか生きむ。
飯、食いたきがゆえか、酒飲みたきがゆえか、女抱きたきがゆえか、賭場荒らしたきがゆえか。

さあらず。

断じてさあらず。

我、今生にて求めたるは、美なり。
わけても言の葉の美なり。

我、何をか忘れむ。

我、初老の域に達し、我が天命を思い至るべし。

我、何をもって今生をわたるべきか。

思い至るべし、天命。