イチロー選手が日米通算4,000本安打を達成しましたね。
2,000本で名球会入りが認められると言いますから、その倍。
ちょっと信じられないような数字です。
正に天才としか言いようがありません。
いつの時代にも、どんな分野にも、天才としか言い様がない人が現れます。
神に選ばれたとでも言うような。
しかしその裏には、プロ野球で活躍したいという野望を持ちながら、結局その力が無く、平凡なサラリーマンとなり、草野球などではスター選手になる、という人が何万人も存在しているでしょう。
それは何も野球に限ったことではありません。
他のスポーツ選手、また、歌手や役者などの芸能人、絵描きや詩人などの芸術家、それら華やかな表舞台で活躍し、名を残したいというのは、少年少女にだけ許された特権とでも言うべき野心です。
圧倒的多数の人々は、そういった野心を諦め、現実に適応して、自分にできる仕事に就いて、結果的にそれらあまたの人々が社会を支えることになります。
しかしおそらく、心の底から野心を諦めたことを納得している人は少ないのではないかと推測します。
例えば、もう一歩のところでプロ野球チームに入団できそうになった人は、もしあの時運が良ければ、今頃は花形選手になっていたかもしれないと思い、このたびのイチロー選手の快挙に激しい嫉妬を覚えるかもしれません。
かくいう私も、編集者におだてられ、商業作家になる実力は十分ある、と言われながら、結局それは叶うことはなく、叶わないと思い知った時から、しばらくは芥川賞や直木賞のニュースを見ないようにしていました。
猛烈に嫉妬してしまいますので。
その嫉妬心を消したのは、思いがけず発症した精神障害でした。
野心も糞もなく、当たり前の勤め人さえ勤まらなくなってしまったのですから。
さらに病気休暇中、自助グループに参加して、うつ病、双極性障害、統合失調症など、様々な精神障害の人々に接し、皿洗いでも床掃除でもなんでもいいから仕事を得たいと奮闘している人々を見て、私の考えは大きく変わりました。
やっと職を得ても、障害ゆえに長続きしない、どうしたら長続きできるのだろうかと、思い悩んでいる人が大勢いるのです。
また、身体障害に比べ、精神障害者に対する世間の偏見は未だに根強く、オープンかクローズかで悩んでいる人もたくさんいました。
つまり、就職活動の際、精神障害者であることを明かすか隠すかと言うことです。
それら精神障害者は、概ね善良で真面目であり、ただ、おのれの力では如何ともしがたい精神の不調ゆえ、まともに就職することが出来ないのです。
私は自助グループの仲間たちを見て、泣けてくるほど激しい同情と、世間の偏見に対する憤りを禁じ得ませんでした。
例えばしつこいくらい勧誘してくる、昼休みになると現れる保険屋は、私が精神科に通院していると知るや、たちまち去って行きます。
面白いくらいです。
ちなみに有名な保険会社の社員にこっそりアンケートを取ると、自社の保険に入っている人はまずいないそうですね。
保険会社社員は、国民共済・県民共済などに加入するのが一般的だそうで、私も県民共済にしか入っていません。
米国の保険会社で、30年も加入している客が癌になった際、20年前に虫歯で歯医者にかかったことを告知しなかったことをもって、保険金の支払いを拒否したそうです。
癌と虫歯に何の関わりがあると言うのでしょうか。
閑話休題。
世界に60億の人がいるとして、60億の野心があり、また、60億の挫折や諦めがあるはずです。
私は今、精神障害をほぼ克服し、44歳の誕生日を迎えて、あまりにも多様な人々の生き様を知るにつけ、60億すべてが尊重される社会を築かなければならないと痛感するのです。
ちょっとした価値観の違いや、人生経験の相違、また、歴史観の違いや利害などで、どうせ100年が精いっぱいの人生を争いに費やすなど、馬鹿馬鹿しいことです。
ちょっとした幸福感を感じられれば、それで十分でしょう。
それは仕事であれ遊びであれ日常生活であれ。