希薄

文学

 2009年、村上春樹エルサレム賞を受賞したとき、私は初めて、しゃべって動く村上春樹を目撃しました。
 村上春樹という人はそもそも存在しないんじゃないか、という漠然とした予感のようなものを感じていた私は、生身のさえない中年男をテレビで見て、失望を感じたものです。
 デヴュー作「風の歌を聴け」は大学生のわずか19日間を描いた小説ですが、そこにはドラマがありながらストーリーが希薄で、架空の米人作家、ハートフィールドなる人物に仮託して作家の思いを語ったり、なんだか現実感がないのです。
 そこが魅力なのですが、この希薄さはなんだろうと、何度も読み返したことを思い出します。
 続く「1973年のピンボール」・「羊をめぐる冒険」・「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」と、確かな物語がありながら、何か希薄なのです。
 そのような印象から、村上春樹という作家は存在しない、もしくは表に出てこない、と勝手に決め付けていて、エルサレムでイスラエルを批判する政治的なスピーチをする丸顔の中年を見て、腰が抜けるほど驚いた、という次第です。

 三島由紀夫石原慎太郎、村上龍のように過剰にマスコミに登場する小説家もいれば、丸山健二古井由吉のように作品を問うだけの作家もいます。
 それは性格のようなもので、どちらでもよいんですが、私は村上春樹にはミステリアスな存在のままでいてほしかったですね。
 ここ何年もノーベル文学賞の候補に挙げられていますね。
 遅かれ早かれ受賞するものと思います。
 その時には、授賞式に出るのは仕方ないとして、なるべく取材は受けず、ノーベル賞受賞記念講演では政治的な話は避けてほしいと思います。

風の歌を聴け (講談社文庫)
村上 春樹
講談社
1973年のピンボール (講談社文庫)
村上 春樹
講談社
羊をめぐる冒険(上) (講談社文庫)
村上 春樹
講談社
羊をめぐる冒険(下) (講談社文庫)
村上 春樹
講談社
世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈上〉 (新潮文庫)
村上 春樹
新潮社
世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈下〉 (新潮文庫)
村上 春樹
新潮社

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