張りぼての城

文学

 天気予報では、首都圏は大雪だと騒いでいましたが、千葉市周辺はただの雨です。
 千葉県北西部には大雪警報が出ていますが、千葉市も大きくくくれば北西部だと思いますが、いったいどこに雪が降っているのでしょうねぇ。

 不思議です。

 まぁ、降らないと言って降るより、降るぞ降るぞと脅しておいて降らないほうが気分的にはよろしいようです。

 去年はひどく降りましたからねぇ。

 実際の雪は、とくに出勤しなければならないサラリーマンにとって、なかなか恨めしいものですが、観念上の雪となるとまた趣を異にします。

 例えば、私が敬愛してやまない若山牧水のこんな歌。 

 おとろへし わが神経に うちひびき ゆふべしらじら 雪ふりいでぬ

 当時流行りの神経衰弱を患っていたのでしょうか、あるいはまた、純粋に芸術上の問題で憂愁に沈んでいたのでしょうか。  

 雪が衰えた神経にさわるというのは、おそらく精神上のことであろうと思います。
 そう思うと、辛い雪が歌人を責めているというより、歌人はどこか心地よいメランコリーに浸っているようにも感じられます。

 ひとしきり あはく雪ふり 月照りぬ 水のほとりの 落葉の木立

 こちらは先ほどの歌と比べて、小憎らしいほどうまい出来栄えです。
 雪・月・落葉の木立と、対比が見事で、寒々しい空気感までが感じられるようです。
 私はこのような美的な歌を良しとします。

若山牧水大全
若山牧水
古典教養文庫

 

若山牧水歌集 (岩波文庫)
伊藤 一彦
岩波書店

 考えてみると私は、実際の雪月花よりも、本当の自然よりも、本気の恋よりも、偽物の、観念上の美や情感を好んできたように思います。

 バヴァリアの狂王、ルートヴィヒが、お屋敷の離れに偽の月を浮かべ、人工の池を作り、船を浮かべて半裸の美少年を侍らせて喜んでいたように。

 ルートヴィヒです。

狂王ルートヴィヒ―夢の王国の黄昏 (中公文庫BIBLIO)
Jean Des Cars,三保 元
中央公論新社



ルートヴィヒ 復元完全版 デジタル・ニューマスター [DVD]
ヘルムート・バーガー,ロミー・シュナイダー,トレヴァー・ハワード,シルバーナ・マンガーノ,ヘルムート・グリーム
紀伊國屋書店

 張りぼての城に比べて、本物は、私には過酷過ぎるようです。

 その私が、月曜日から金曜日まで、現実の雑事に追われ、これをこなしているとは、我ながら芝居巧者だと思います。

 しかしもう、職場でお役目を演じ続けるのは疲れました。
 経済上の要請により、これを辞めることは出来ませんが、精神的には、ご隠居気分で日々を乗り切りたいと思っています。

 にほんブログ村 本ブログ 純文学へ
にほんブログ村


人文 ブログランキングへ