思い出は満たされないまま

文学

 先週の土曜日から始まった6日間の短い夏休みは今日まで。

 明日から出勤です。


 もっとも、明日は金曜日ですから、明日一日行けばまた土日なんですけどね。

 金曜日も休暇を入れるという手もあったのですが、そうすると来週の週明け、おそろしく行きたくなくなるだろうなと思い、リハビリのつもりで明日出勤することにしました。

 今日は静かに読書などを楽しんでいます。

 「思い出は満たされないまま」、というノスタルジックな連作短編集を読みました。

思い出は満たされないまま (集英社文庫)
乾 緑郎
集英社

 多摩の古い団地を舞台に、様々は奇妙で不思議な物語が紡ぎだされます。

 立入り禁止の神社の裏にある小山で神隠しにあう少年。
 
 団地に核シェルターを設置するという話が持ち上がり、試しに数日間核シェルターで暮らす家族のありようとともに描かれる、認知症の母親を介護しながら、自治会の副会長を務める男と、かつて団地に住んでいたホームレスの男との不思議な交流。

 ため池で釣りをする謎の老人と少年達。 

 かつて悪役のプロレスラーだった孤独な老人を、ライバルだった米国人レスラーが訪ねてくる話。

 小説を書く高校生男女が、ある空き部屋で世界一長い、しかしどこにも発表されていない小説を巡って起こる珍騒動。

 サンタフェの奇跡、と呼ばれる、支柱がない、構造的には有り得ない作りの螺旋階段を倉庫に造ってしまった老大工。

 そして最後の小説、「少年時代の終わり」では、それまでに登場した主要な登場人物が現われて、大団円を迎えます。

 いずれもノスタルジックで、どこかほろ苦い味わいをもった小説群です。

 平凡な人生などというものは、この世に本当に存在するのだろうか。平凡にみえて、みんな、何か不思議な物語を心に秘めているのではないか。

 という、ラストに近い一節は心に残ります。

 すると私が心に秘めている不思議な物語とは何でしょうね。

 それを探し当てたいと願わずにいられません。