恐怖と生存

思想・学問

 私は好んでホラー映画やサイコ・サスペンスなど、怖いお話に接します。
 そして私は、たいへんな怖がりでもあります。
 子どもの頃は、夜中一人でトイレに行かれませんでした。
 怖がりだからこそ怖いお話が好きなんだと、ずっと思ってきました。

 しかし、この世には恐怖を感じることができない奇病にかかる人がいるそうです。
 ウルバッハ・ビーテ病というそうですが、脳で恐怖を司る扁桃体という部位が破壊され、通常だと恐怖を感じるべきところ、強い好奇心を持つそうです。
 そのため、毒蛇だろうがライオンだろうが高い所だろうがまったくへっちゃら、というか喜んで近づいていくというから驚きです。
 そして患者は、怖いお話を好む傾向があるとか。
 もちろん、全然怖がらないわけですが。

 この病気の患者は長生きするのが難しいそうです。
 それはそうでしょう。
 恐怖を感じて逃げるもしくは戦うべき場面で、恐怖の対象に好奇心を抱いてしまうわけですから。
 命がいくつあっても足りないというものです。
 そうかと思うと、ある女性患者はレイプされそうになった時、あまりに平然としているので犯人が意気消沈してしまい、助かったそうです。

 恐怖を感じない以外は全く正常なので、暮らしは普通にできるようですが、どうしたって注意が疎かにはなるでしょうね。

 ちょっと似た病気に痛みをまったく感じない奇病(HSAN type 5=第5種遺伝性感覚自律神経性ニューロパチー)というのもあるそうで、大体子どものうちに大けがを繰り返し、亡くなる例が多いと聞きました。
 高いところから飛び降りて骨折して骨が露出していても平気で遊んでいたり、石油ストーブに寄りかかって大やけどを負っているのに、けたけた笑ってテレビを見ていたり、要するに怪我に対してあまりにも不用心になってしまうわけです。

 恐怖といい痛みといい、人間にとっては不快な感情や感覚が、いかに生きる上で重要かを痛感させられる病気です。

 最近ではPTSD(心的外傷後ストレス障害)の治療にウルバッハ・ビーテ病の症状を応用できないか研究しているそうです。
 PTSDというのは戦争や天災、イジメなど、あまりに辛い経験をしたためにその恐怖から逃れられなくなる病気ですから、適度に恐怖を感じないようにすれば治癒するだろうというわけです。

 私もおバカさんで困ったちゃんの職場のトップから暴言を受け続け、医師からPTSDの症状が認められる、と診察されました。
 してみると私にもウルバッハ・ビーテ病を応用した治療が有効なのかもしれません。
 早く治療法が確立してほしいものです。

PTSD 人は傷つくとどうなるか
加藤 進昌,樋口 輝彦,不安抑うつ臨床研究会
日本評論社

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