悪の華

文学

 近代詩の父とも称されるボードレール
 しかし生前はあまり認められず、世をすねたような詩も数多くあります。
 生前唯一発表された「悪の華」は公序良俗に反するとして摘発され、罰金刑に処せられたりしています。
 亡父の莫大な遺産を派手に散財し、準禁治産者にされてしまったとか。
 後のヴェルレーヌランボーに影響を与えたことでも有名ですね。

 ボードレールです。

 「悪の華」から、一篇。
 「敵」と題されています。

    我が青春は陰惨なる嵐に似たり
    時に一筋の光明なきにあらずも
    すさまじき雷雨吹き荒れ
    ひとつの果実とて実を結ぶことなし

    いまや実りの季節というに
    鋤と鍬とで 洪水に浸った土地を
    あらたに耕しなおさねばならぬ
    墓穴のようなこの土地を

    我が夢に見る新しき花々が
    砂浜の如く不毛なこの地に
    実を結ぶことなどあるだろうか

    苦しや! 時が命を食いつぶす
    我らの心臓をかじる隠れた敵が
    血を嘗め尽くして肥え太るのだ

 ここで敵とは、時間と解するのが一般的なようです。
 時間が若さを奪い、得られたであろう名誉や富を奪ったというのですから、ケチな詩です。
 私が慣れ親しんだ日本の古典に見られる和歌や俳句とは随分違っていますね。

 ケチですが、そこには魂の叫びとでも言うような迫力があります。
 一枚まわしで強引に投げを決めるような力強さとでも申しましょうか。
 ひとつの果実とて実を結ぶことなし、とは何事でしょうねぇ。

 時間が私たちから若さを奪い、老いさらばえて死ぬしかないことはまごうことなき事実。
 私たちはおぎゃあと生まれた瞬間から、死の恐怖から逃れることはできません。

 よく、今が一番若い、とか言いますね。
 明日は今日より老いており、明後日はさらにまた然り。
 それは100歳の老人でも同じこと。
 100歳の今日が、明日よりも明後日よりも若いのです。

 そうであるならば、喪った若さを惜しむより、一番若いはずの今を楽しむ他ありますまい。
 昔、「黄昏」という老夫婦が湖畔の別荘でひと夏を過ごす美しい映画がありました。
 その中で、老いた夫が老いた妻を見つめて、「皺の一本一本までが美しい」と泣かせるセリフを吐くシーンがあり、非常に感銘を受けた覚えがあります。

 皺も白髪も禿げも、その人が生きてきた証し。
 しかも明日はもっと老いているのです。

 明日をも知れぬ身であれば、今を楽しむ以外に、生きる術はありますまい。 

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