悪を描く

文学

   坂東三津五郎が59歳の若さで帰らぬ人となってしまいました。

 たしか中村勘三郎もそのくらいの年齢で亡くなったと記憶しています。
 当代の人気役者だけに残念ですねぇ。

 

 私は一時期歌舞伎に凝り、わけても尾上菊五郎が贔屓でした。

 顔よし、声よし、姿よし、と謳われていましたが、わりと小柄でしたね。
  しかし江戸っ子の典型的なスタイルは小柄でやせ形ですから、それもまた売りだったのだろうと思います。 

 菊五郎の「弁天小僧」は私が最も好む演目で、お嬢様に化けて呉服屋に入り、イチャモンをつけて金をゆすり取ろうとしたところ、男とばれて、急に大きな伸びをし、着物を脱いで見得を切る場面は歌舞伎屈指の見せ場でしょう。

 歌舞伎の本質は人間だれもが持つ悪を描くことにあろうかと思います。
 善人だったやつがちょっとしたきっかけで悪に落ちたり、あるいは信頼しあった義兄弟を裏切ったり。

悪への招待状―幕末・黙阿弥歌舞伎の愉しみ (集英社新書)
小林 恭二
集英社

 それを流麗で耳心地の良い江戸弁でやるのだからたまりません。

 坂東三津五郎は端正な芸風で知られ、私はもう少し崩れているほうがお好みですが、現代劇をも器用にこなす、役者以外の仕事が想像できない人でした。

 ご冥福を祈ります。

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