悪意

映画

 午後はサスペンスと呼ぶには重過ぎる人間ドラマ、「少年は残酷な弓を射る」を鑑賞しました。

 まぁ、残酷な事件を扱ってはいますが、文芸作品でしょうねぇ。

 元来文学作品や舞台芸術では、様ざまに悪が描かれてきました。
 わが国の歌舞伎なんかは、悪を描くために存在しているようなもので、その当時の人々の美意識が感じられ、おそらく悪を描くことに関しては世界一の様式なんじゃないかと思います。
 そこらへんの事情は、小林恭二「悪への招待状」に詳しく書かれています。

悪への招待状 ―幕末・黙阿弥歌舞伎の愉しみ (集英社新書)
小林 恭二
集英社

 で、この映画、赤ん坊の頃から母親だけに反抗的態度を取り続ける息子と母親の関係性を軸に、父親や妹をからめた家族のドラマになっています。
 幼い頃絵本で「ロビン・フッド」を観て弓に憧れるようになり、まずは吸着ゴムが付いた玩具の弓矢を与えられ、広い自宅の庭で日夜練習に励みます。

 中学生になって本物の弓矢を父親にプレゼントされ、さらに16才になる頃には最新式の弓矢をもらいます。

 16才で少年は弓矢を使って母校で無差別大量殺人事件を起こすのですが、これがまた戦慄すべき美少年ですねぇ。
 
 しかもその悪意と自信に満ちた表情が、少年らしい矜持をもって、観る者を圧倒します。

 歌舞伎で言う色悪そのものです。

 ただし、文芸作品らしく、殺害するシーンは直接はなく、ほのめかされるだけです。


 

 過去の様ざまな映像作品の中では、ヴィスコンティ監督「ベニスに死す」に登場するタジュウが一番の美少年ということになっているようですが、今作のケヴィンはそれを超えているように感じます。

ベニスに死す [DVD]
ダーク・ボガード,ビョルン・アンドレセン,シルバーナ・マンガーノ,ロモロ・ヴァリ
ワーナー・ホーム・ビデオ

 しかし、高い評価を受けたこの作品ですが、私としては不満が残ります。
 まず悪を描きながらそれが中途半端なこと。

 「悪の教典」のほうがはるかに徹底して悪を描いています。

悪の教典 DVD スタンダード・エディション
伊藤英明,二階堂ふみ,染谷将太,林 遣都,浅香航大
東宝

 それと、家族を描くに際して、あるべき家族像みたいなものが透けて見えてしまうこと。
 そもそも家族というのは最も近しい関係性ゆえ、愛憎渦巻くほうがむしろ当然で、母親と折り合いの悪い息子なんて世間にはあふれかえっています。

 そして何よりラストがいけません。

 色悪は最後まで色悪でなければ。

 ホラー映画への感想では、私のホラー作品への限りない愛情から、あまり辛口の感想は書きませんが、文芸作品として扱われ、しかも数々の賞を受賞するなど評価が高いゆえに、あえて難点を挙げてみました。

 まぁ、直接ご覧になってくださいとしか言えませんねぇ。

少年は残酷な弓を射る [DVD]
ティルダ・スウィントン,エズラ・ミラー,ジョン・C・ライリー
東宝



少年は残酷な弓を射る 上
光野多惠子,真喜志順子,堤理華
イースト・プレス

 

少年は残酷な弓を射る 下
光野多惠子,真喜志順子,堤理華
イースト・プレス

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