戦艦大和ノ最期

文学

 吉田満の「戦艦大和ノ最期」を読みました。

 この作品の存在は中学生の頃から知っていましたが、戦争賛美だの、軍国主義的だのという的外れの評判を耳にし、これまで敬遠してきました。

 しかし、先日某文芸評論家が、これを近現代の日本文学最高の作品と紹介していたのを読み、テにしたというわけです。

 全編漢字とカタカナの流麗な文語体で、自身が体験した大和の悲劇と、死ということ、国家ということ、戦争ということについて、学徒出陣で大和に乗り込んだ若い将校の苦悩が綴られます。

 私が驚いたのは、大和の若い将校たちがかなり自由闊達に議論していることです。

 例えば、世界の3大無用の長物として、万里の長城・ピラミッド・大和、と自嘲したり、海軍を救う唯一の方法は少佐以上全員銃殺、と言ってみたり。

 彼らがそれで罰せられることはありません。
 ただ黙殺されるか、同じ階級の将校同士で喧嘩になるか、です。

 そしておそらく助からないであろう沖縄救援のため、片道分の燃料を積み、航空機による護衛もなく、駆逐艦9隻とともに特攻に出るという作戦ともいえない無謀な作戦に駆り出されるとき、それぞれが死ぬ意味を考え抜きます。

 沖縄にたどり着く前に米空軍に撃沈されるだろうことは覚悟のうえで、しかしその間米空軍を大和にひきつけて、米海軍の守りが手薄になった間に神風特攻により米空母をたたく、という囮作戦です。

 運よく沖縄にたどり着いたなら、大和の艦砲射撃によって陸軍を助けるとともに、大和乗組員は陸戦隊として陸軍とともに戦おうというわけで、これでは生きて帰れると思うほうがおかしいでしょう。

 しかし作者は幸運にも生き残り、海を漂流した後日本海軍の駆逐艦に救助され、この著作を物します。

 彼ら若い将校たちの死に対する多数意見は、次のような言葉に収斂されるようです。

 敗レテ目覚メル、ソレ以外ニドウシテ日本ガ救ワレルカ 今目覚メズシテイツ救ワレルカ 俺タチハソノ先導ニナルノダ

 ただし、これは学徒出陣によって将校となった者たちの考えで、海軍兵学校卒という海軍エリートの将校たちは、国家のため、陛下のために戦い、死ぬ、それだけだ、と割り切っています。

 職業軍人とそうでない者の差が出ていて興味深く感じました。

 戦記文学であることは間違いありませんが、当時の学生たちが、突如将校として戦場に駆りだされ、迷い戸惑う姿はじつに迫力があり、私を圧倒しました。

 ただし、作り物の幻想文学を好む私には少々ヘヴィ過ぎたようで、読み終わってかなり疲れましたねぇ。

戦艦大和ノ最期 (講談社文芸文庫)
鶴見 俊輔
講談社

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