日本必敗

社会・政治

   今日は12月8日。
 終戦の日の8月15日のように騒がれることはありませんが、忘れてはならない日です。
 太平洋戦争開戦の日。

 降伏を決めるよりも、開戦を決意するほうが重いような気がします。

 開戦を間近にひかえ、総力戦研究所という機関が立ち上げられ、中堅どころの役人や軍人、民間人などが、模擬内閣を作って机上演習を行っています。
 その報告書は驚くべきものです。

 開戦後、緒戦の勝利は見込まれるが、その後の推移は長期戦必至であり、その負担に日本の国力は耐えられない。戦争終末期にはソ連の参戦もあり、敗北は避けられない。ゆえに戦争は不可能、という「日本必敗」、でした。

 これは、ほぼ実際の戦争の推移を言い当てています。
 気持ち悪いほど正確な未来予測です。
 さすがに原爆の投下までは予測していませんが。

 これに対し、東条英機は、机上演習に過ぎず、実際の戦争はそういうものではない、事実、誰が日露戦争の勝利を予想し得たか、と、一蹴し、この結果を口外してはならない、と釘を刺しています。

 すでに過去を知っている現在の目から見れば、恐るべき正確さと冷静さで導き出された報告だということが分かりますが、報告書が出された時点ではあくまで未来予想。
 これに反発したくなる気持ちも分かります。

 ヒトラーはわが国と軍事同盟を結んだ際、我々は3千年間、外国との戦争に負けたことが無い国と手を結んだ!、と狂喜した、と伝えられます。
 そのくらいですから、本邦の軍人や国民が、日本は戦争に負けることはない、と信じていたとしても不思議ではありません。

 開戦のちょっと前に、冷静に、日本は必ず敗れる、という結論を導き出し、それを政府首脳に報告するのは、勇気が要ったでしょうね。
 しかし少なくとも、わが国が狂気に駆られて戦争に突き進んでいったわけではない、ということの傍証にはなるでしょう。

 必ず負ける、という報告を受けながら、それを口外するなと命令し、戦争に突き進んでいったという過去を、肝に銘じなければなりません。
 今後訪れるであろう戦争の危機を回避するための教訓になるでしょうから。

昭和16年夏の敗戦 (中公文庫)
猪瀬 直樹
中央公論新社