春の気

文学

 今日は立春ですね。

 暦便覧によれば、春の気立つを以って也、と簡潔に記されています。

 ここ三日ばかり、暖かい日が続いて、春の気が立っている感じがします。
 しかし天気予報によれば、水曜日はまたもや雪のようです。
 今年はよく降りますねぇ。
 体がついていきません。

 春は人を浮かれさせる季節でありながら、どこか憂愁の気が漂う時季でもあります。

 私は精神障害発症以来、もっぱら春を憂愁の季節ととらえてきましたが、もうほぼ寛解してから三年もたつので、今年あたり軽く浮かれてみたいものです。

 春は恋の季節でもありますし。

 ここ数年、恋心というものがどういうものであったか、忘れているような気がします。
 別段不倫などという大それたことをする気はありませんが、薄い恋心くらい抱いてみたいものだと思います。

 紅梅の 二月は恋の 鹿子哉

 正岡子規
の句です。

 この時季、鹿も恋をするというわけで、どこか色っぽい興趣を感じさせます。

 日傘の影 うすく恋をしている

 こちらは夏の句ですが、なかなか面白いですねぇ。
 自由律俳句で恋を詠んだ句は多くはないですが、これなどは出色の出来だと思います。
 世に出ることがないまま20代前半で病に倒れ、早逝した住宅顕信の句です。

 もう十年も前ですか、中年サラリーマンを起用したCMで、恋は遠い日の花火ではない、というコピーが評判になりましたね。

 中年になって、日々の生活に疲れてしまうと、なかなか恋心など抱く閑がありません。

 しかし、まわりの先輩を見ていると、50代に入って突然若い女に手を出そうとする不逞な輩を見かけます。
 最後に一花咲かせたい、みたいな気分になるようで、それはオスとしての生殖能力が落ちる前に起こる生理現象であるように見受けられます。

 私はそんな面倒なことはご免ですが、ただ、心のなかでだけ、薄く恋してみたいような気がするのです。

子規句集 (岩波文庫)
高浜 虚子
岩波書店


住宅顕信読本―若さとはこんな淋しい春なのか
辻 仁成,小林 恭二,石井 聡亙,香山 リカ,長嶋 有
中央公論新社


住宅顕信全俳句集全実像―夜が淋しくて誰かが笑いはじめた
池畑 秀一
小学館


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