春雨

文学

 今日は気温が高く、雨が降っています。

 すっかり春雨の風情です。

 春の強い陽射しには瘴気が強く漂って、私をして沈ませますが、春雨には瘴気を消す効果があるように感じます。

 春雨や ものがたりゆく 簑と傘   与謝蕪村

 春雨を詠んだ句で私が最も愛好するものです。

 春雨の中を、蓑を被った者と傘をさした者が楽しげに語らいながら歩く姿には、ほのぼのとした風情が感じられ、私の心も癒されます。

蕪村俳句集 (岩波文庫)
尾形 仂
岩波書店

 

郷愁の詩人 与謝蕪村 (岩波文庫)
萩原 朔太郎
岩波書店

 正岡子規の、

 くれなゐの 二尺のびたる 薔薇の芽の 針やはらかに 春雨のふる

 
という和歌のほうが、春雨を詠んだ和歌や俳句の中では有名かもしれませんね。


子規歌集 (岩波文庫)
土屋 文明
岩波書店

 どちらも、春雨を、春の足音が感じられる好意的なものととらえているように感じられます。

 筒井康隆「敵」という小説では、定年退職して独り悠々自適の生活をおくる元大学教授の日常がつづられています。

敵 (新潮文庫)
筒井 康隆
新潮社

 少し頭が弱くなってきた老学者、「春になったらみんなが来てくれるなぁ」という意味のセリフを繰り返し独りごちます。

 教え子や編集者を指しているようですが、読み進むうちに、春になっても老学者の元を訪れる者などいないのだということが判明し、なんとも切ない気持にさせられます。

 それでも春を待ちわびる元教授の心情は、おそらく、日本人が太古の昔から抱いてきた、春という季節への感傷的とさえ言える愛情と相通じるものがあるのでしょう。

 最近陽が長くなって、職場を出る頃はまだ明るく、私はそれが嬉しいですねぇ。

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