暗い日曜日

文学

 北原白秋は短い間でしたが、私のふるさと、江戸川区に住んでいたことがあります。
 23区とはいえ東のはずれで、当時はずいぶん鄙びた感じだったようです。

 夏浅み 朝草刈りの童らが 素足にからむ 犬胡麻の花

 北原白秋が江戸川区在住の頃詠んだと伝えられる和歌です。
 歌の内容からも、当時の江戸川区が牧歌的な雰囲気を持った田舎であったことが知れます。

 西欧の文学にかぶれていたこともある北原白秋ですが、こんな牧歌的な、ノスタルジックな和歌を詠んでいたのですねぇ。

 ちょっとびっくり。

 江戸川区では、都内で唯一の手作りの風鈴を作っていたり、金魚が盛んだったり、奇妙なものが有名ですね。
 しかし私は江戸川区に住んで都心の学校に通っている頃、江戸川区はとてつもなく都心から遠いド田舎で、なんでこんなところに住まなければいけないのだと嘆いていました。

 で、周辺区から都心に通うしんどさに嫌気がさして、千葉に就職して東京から遁走しいたというわけです。
 千葉市中心部から電車で二駅目に住んでいるせいか、住まい周辺は今の所のほうが都会的で利便性も高く、しかも人は少ないという、私にとって理想的な環境です。

 しかし私にとって最も印象深い北原白秋の歌は、

 草わかば 色鉛筆の赤き粉の ちるがいとしく 寝て削るなり

 ですかねぇ。

 この歌に触発されて、中学生の初夏、江戸川土手に寝転んで色鉛筆を削ってみたことがあります。
 しかし、和歌で読むと詩情あふれる状況ですが、やってみると怖ろしく退屈なのですよねぇ。
 それ以来、文学作品はあくまでも作り物として鑑賞するのが良く、その光景を真似したところで白けるだけだと思い知りました。

 何事も影響されやすい人がおり、曽根崎心中が流行った江戸時代、心中する男女が後を絶たなかったとか。

 今も著名人が自殺するとそれと同じ方法で後追い自殺する人が現れますね。
 色鉛筆を削るくらい他愛ないことですが、生き死にが関わるとは穏やかではありません。

 1933年、ハンガリーで、「暗い日曜日」という歌が発表されるや、この歌を聞いた多くの者が自殺するという事件が起きました。

暗い日曜日 ― オリジナル・サウンドトラック
ワーナーミュージック・ジャパン
ワーナーミュージック・ジャパン

 英国BBCでは放送禁止になったそうです。
 欧米では、今も自殺の聖歌などと呼ばれいるようです。

 怖ろしや。

 わが国でも、淡谷のり子をはじめとして、多くの歌手がこの歌の日本語訳を歌っています。

 まぁ、都市伝説のような気もしますが。

 いずれにしろ、芸術作品や流行歌などに影響されない、強い精神力が求められます。

北原白秋歌集 (岩波文庫)
高野 公彦
岩波書店


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